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FAQ(よくある質問)

 

Q.不動産売買を消費者契約法で取り消せる?

不動産売買契約を解除したい、取り消したいという相談は少なくありません。

ただ、金額も高額であり、通常は、売主の激しい抵抗にあいます。裁判に発展することも多いです。

今回は、条例違反の物件が問題になった裁判例を紹介します。


名古屋高等裁判所平成30年5月30日判決の紹介です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.8.7

事案の概要

買主は、不動産会社から土地・建物を購入しました。

ところが、本件不動産は名古屋市風致地区内建築等規制条例に違反する状態でした。

買主は、不動産会社はそのことを秘して買主に本件不動産を売却したなどと主張。

不動産会社の契約違背を理由とする本件売買契約の約定に基づく代金返還義務、又は、本件売買契約の錯誤無効、詐欺取消し、消費者契約法四条二項に基づく取消し若しくは瑕疵担保責任に基づく解除による原状回復義務として、本件売買契約の代金等の返還金9778万9100円を請求。

さらに、本件約定に基づく売買代金の2割相当額の違約金1954万円の請求。


不法行為に基づく損害賠償金1795万8558円の請求をしました。

原判決は、買主の請求をいずれも棄却。

買主が控訴。

 

控訴審の追加主張

瑕疵担保に基づく損害賠償責任の有無及び損害額です。

買主は、本件不動産には緑化率の不充足という条例違反の瑕疵があったため、買主は、合計1795万8558円の損害を被ったと主張。瑕疵ある住宅の場合、厳密な意味での信頼利益に限定されず、慰謝料、弁護士費用等の損害も賠償の範囲に含まれると解すべきであると主張しました。

 

また、不動産会社からは、仮に本件売買代金等の返還請求が認められる場合には、買主は、本件不動産につき本件抵当権設定登記の抹消登記手続を受け、本件土地につき本件所有権移転登記の抹消登記手続をなし、本件建物につき真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をなし、本件不動産の引渡しをしなければならず、これらの原状回復義務は本件売買代金等の返還義務と同時履行の関係にあるから、引換給付判決とすべきであるとの主張がされました。


使用収益に関する主張追加

不動産会社からは、仮に本件売買代金等の返還請求が認められ、法定利息の請求が認められるとしても、買主は、原状回復として本件不動産を返還し、その使用利益も返還しなければならないところ、この法定利息と使用利益は等価であるとの主張がされました。

不動産を使用していた期間、利益を得られただろうという主張です。

また、本件不動産の減価分について補填がされなければ原状回復義務が履行されたとはいえないところ、その計算方法としては月額40万円とするのが相当であるとも主張。

これらの使用利益は法定利息と損益相殺され、そうでないとしても、不動産会社は対当額で相殺するとの主張がされました。

買主は、不動産会社の欺罔行為により条例違反の瑕疵を帯びた本件不動産への居住を余儀なくされたものであるから、法的には使用利益は存在しないと主張するとともに、不動産会社の損益相殺ないし相殺の主張は、信義則やクリーンハンズの原則に照らしても許されないと反論しました。

 

 

本件土地の状況

本件土地は第一種風致地区内にありました。

不動産会社は、本件建物の新築につき、名古屋市長に対し、名古屋市風致地区条例二条一項に基づく許可を申請し、その許可を受けました。

その許可申請書には緑化計画図を添付。

図面の緑色の円(又は円の一部)の中心に高木を配置し、黄緑色の部分に芝を貼ったり低木を植栽することにより緑化率を達成しようとするものでした。本件建物の周囲には、玄関ポーチを除いて本件建物を取り巻くように芝を貼ることとされており、後に本件デッキテラスが設置された部分にも芝を貼ることとされていました。

 

不動産会社は、名古屋市長に対し、名古屋市風致地区条例施行細則六条一項に基づき、許可に係る行為を完了したとして、行為完了届を提出。この行為完了届には、同施行細則六条二項に従い、行為完了後の植栽及び建築物等の写真が添付されていました。

同時点では、後に本件デッキテラスが設置された部分を含め、許可申請時に芝を貼るとされていた部分に実際に芝が貼られていたほか、申請時には緑化予定とされていなかった部分にも芝が貼られていました。

 

芝の撤去によるデッキテラスの設置

しかし、その後、不動産会社は、本件建物の南西側の芝を撤去して本件デッキテラスを設置。

買主は、かねてから居住用不動産を探しており、本件不動産を見学。

不動産会社の従業員は、買主夫婦に対し、本件デッキテラスからの眺望をセールスポイントの一つとして説明。

売買契約を締結しました。

しかるに、買主は、その後、一級建築士から、本件不動産が緑化率の不足のため名古屋市風致地区条例に違反している旨を指摘され、弁護士に相談し、不動産会社に対し、本件売買代金等の返還を請求したという経緯でした。

 

瑕疵担保責任に基づく解除

上記芝の撤去により、本件不動産は条例違反の物件となりました。

名古屋市風致地区条例により緑化率を30パーセント以上とすることが要求されているにもかかわらず、緑地面積が27.2平方メートル不足しているため、同条例の定める緑化率を充足していないという状態でした。

裁判所は、この瑕疵について、建売住宅を購入しようとする一般消費者が通常の注意を払っても気付くものではなかったというべきであるから、本件不動産には隠れた瑕疵があったと認定しました。


ただ、買主が瑕疵担保責任を理由に売買契約の解除をすることができるのは、当該瑕疵があるために契約をした目的を達することができないときに限られていました。

この条例違反の瑕疵は、緑地面積を27.2平方メートル増加させることによって解消することができます。

具体的には、本件建物の周囲に四本の高木を植栽する方法、本件建物の玄関から北東側道路に向かう通路状部分及び駐車場部分に五本の高木を植栽する方法、駐車場部分の地面に植生用ブロックを設置して芝を貼る方法等によって、緑化面積を27.2平方メートル以上増加することができること、これらに要する費用は30万円程度であることが認められていました。

このような点から、裁判所は、瑕疵担保責任については、特異な工法を用いたり多額の費用を要したりすることなく、これを解消することが十分可能であって、瑕疵のために契約の目的を達することができなくなるようなものではないから、瑕疵担保責任を理由とする解除は認められないと判断しました。

 

売買契約の消費者契約法による取り消しは?

瑕疵担保責任による解除が否定されたということで、他の方法での取消ができないかが問題となりました。

裁判所は、買主の主張の中で、消費者契約法による取り消しに着目。

不動産会社は、本件デッキテラスからの眺望及び本件デッキテラスと本件LDKとの一体感をセールスポイントの一つとして、買主を含む消費者に対し購入の勧誘を行ったものであるから、不動産会社は、買主に対し本件不動産の購入を勧誘するに際し、ある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について、当該消費者(買主)の利益になる旨を告げたということができ、かつ、本件デッキテラスが設置され、その部分の芝が撤去された結果、名古屋市風致地区条例の定める緑化率を充足せず、条例違反の状態となっているという当該消費者(買主)の不利益となる事実を告げなかったということができるとしました。

 

この不利益事実の不告知について、当時の消費者契約法に基づき、不動産会社の故意があったか検討しました。

不動産会社は、建売住宅の販売等を目的とする会社であるところ、不動産会社自身が名古屋市風致地区条例二条一項に基づく許可を申請し、許可を受け、その後、本件デッキテラスが設置された部分を含めて芝を貼るなどし、行為完了届を提出したが、その後まもなく本件デッキテラスを設置するため、当該部分の芝を撤去し、そのために上記条例の要求する緑化率を充足しなくなったにもかかわらず、他の部分で緑化面積を確保することのないまま、不動産の販売を開始したという経緯を指摘。

このような事実経過に照らせば、特段の事情のない限り、不動産会社は、上記条例違反の事実を認識しており、かつ、購入希望の消費者が条例違反の事実を認識していないことを知りながら、条例違反の事実を告げなかったものと推認するのが相当としました。

これにより、買主は、消費者契約法により本件売買契約を取り消すことができるとしました。

 

同時履行の抗弁について

本件売買契約が取り消されたことにより、不動産会社が買主に対し、本件売買代金等を返還しなければならない一方で、買主は不動産会社に対し、本件不動産につき抵当権者から本件抵当権設定登記の抹消登記手続を受けた上で、本件土地については本件所有権移転登記の抹消登記手続を、本件建物については真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続をするとともに、本件不動産の引渡しをしなければならないと指摘。


当事者双方の上記各原状回復義務は同時履行の関係にあるとして、買主は、自身の上記給付義務の履行との引換給付により本件売買代金等の返還を求めることができるにとどまるとしました。

 

損益相殺又は相殺についての判断

使用収益分の処理について、不動産会社は、この使用利益と本件売買代金等の返還金に対する法定利息とは等価である旨主張していましたが、使用利益及び法定利息の額は、それぞれ別個に立証又は算定されるべきものであるとしてこれを否定。

そうすると、使用収益については立証が必要となります。

不動産会社は、近隣物件の家賃査定書を提出し、立証しようとしましたが、不十分とされました。

ただ、買主も、本件不動産の賃料相当額が月額20万円程度であること自体は認めるとしていたことから、同額が使用収益として採用されました。

不動産会社の相殺の意思表示により、法定利息の請求権は、これに対応する期間の使用利益相当額(月額20万円)の限度で消滅するとしました。

 

約定に基づく違約金請求

不動産売買契約書には、違約金条項が設定されていることも多く、本件でも規定がありました。

しかし、裁判所は、不動産会社が契約に違背したとは認められず、買主の本件約定に基づく違約金請求は理由がないとして、棄却しました。

債務不履行とは違うという判断でしょう。

 

法改正による影響

本件は、2020年改正民法、2018年改正消費者契約法の施行前の事例です。

旧法が適用されての判断です。

2020年4月に施行された改正民法では、瑕疵担保責任は契約不適合責任となり、解除の要件も変わっています。

また、消費者契約法も改正により、不利益事実の不告知に必要な要件として、事業者の故意だけでなく、重過失でも良くなっています。

本件のような事例では、以前よりも取り消しが認められやすくなったといえるでしょう。

 

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弁護士 石井琢磨 神奈川県弁護士会所属 日弁連登録番号28708

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