FAQ
FAQ(よくある質問)
Q.賃貸借契約に関係する明渡条項の有効性は?
賃貸借契約や家賃保証に関する契約では、借主にとってあまりにも厳しい条項が設定されていることもあります。
消費者契約法違反として争われるケースもあります。
今回、適格消費者団体が原告となり差止請求をした裁判例を紹介します。
大阪地方裁判所令和元年6月21日判決です。
事案の概要
被告とされたのは家賃保証会社。
同社が利用している契約条項は、次のようなものでした。
・一定の場合に保証対象となる賃貸借契約(原契約)の無催告解除権を被告に認める
・解除権の行使について、賃借人に異議がない旨を定めた条項
・被告が賃借人に対して事前に通知することなく原契約賃貸人に対する保証債務を履行することができる
・被告が原契約賃借人に対し事後求償権を行使するのに対し、原契約賃借人及びその連帯保証人が原契約賃貸人に対する抗弁をもって被告への弁済を拒否できないことをあらかじめ承諾する条項
・一定の事由がある場合に、賃借人が明示的に異議を述べない限り、賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を家賃保証会社に付与する条項
適格消費者団体がこれらの条項の差止めを求めたものです。
このうち、最後の条項について差止めが認められました。
具体的な条項は次のようなものでした。
「第18条 賃借人の建物明渡協力義務
1 乙は、原契約が終了するときは、甲及び丁の立会いの下、速やかに本件建物を明け渡すものとする。
2 丁は、下記いずれかの事由が存するときは、乙が明示的に異議を述べない限り、これをもって本件建物の明渡しがあったものとみなすことができる。
・乙が賃料等の支払を2ヶ月以上怠り、丁が合理的手段を尽くしても乙本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から本件建物を相当期間利用していないものと認められ、かつ本件建物を再び占有使用しない乙の意思が客観的に看取できる事情が存するとき」
裁判所の結論
主文として差止めを認めた内容は以下のものでした。
被告は、住宅等の賃貸借契約の賃借人(以下「原契約賃借人」という。)その他消費者を相手方として、上記賃貸借契約(以下「原契約」という。)から生ずる賃貸人(以下「原契約賃貸人」という。)に対する賃料等債務につき保証を受託
することを含む「住み替えかんたんシステム保証契約」(以下「本件契約」という。)を締結するに際し、別紙1契約条項目録記載の18条2項2号のような、原契約賃借人が賃料等の支払を2箇月以上怠り、被告において合理的な手段を尽くしても原契約賃借人本人と連絡がとれない状況の下、電気・ガス・水道の利用状況や郵便物の状況等から原契約の目的たる賃借物件(以下「賃借物件」という。)を相当期間利用していないものと認められ、かつ、賃借物件を再び占有使用しない原契約賃借人の意思が客観的に看取できる事情が存するときに、原契約賃借人が明示的に異議を述べない限り、賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を被告に付与する条項を含む消費者契約の申込みまたは承諾の意思表示をしてはならない。
また、これに基づき、このような条項が記載された契約書ひな形が印刷された契約書用紙を廃棄せよとも命じています。
問題視された他の条項については差止めを認めないという結論でした。
家賃債務保証業の概要・現状は?
家賃債務保証業者の業務の概要について、認定しています。
まず、宅地建物取引業者が関与する一般的な賃貸借契約において、契約締結の際、家賃債務保証業者が予め契約条項等を定めて用意した契約書用紙を用いて、賃借人との間で家賃債務保証委託契約を、また賃貸人との間で家賃債務保証契約を締結し、賃借人から委託保証料を受領します。
その後、上記賃貸借契約において家賃滞納などの事故が発生した場合、賃貸人からの請求に応じて滞納家賃に係る保証債務を履行し、その前後に、賃借人に対して上記保証に基づく求償権を行使しその支払を受けるという流れです。
家賃債務保証委託契約は、宅地建物取引業者が関与する賃貸借契約の締結の直前又はこれと同時に、家賃債務保証業者が作成した契約書用紙に賃借人及び連帯保証人が署名をすることにより締結されることが多いものです。
保証業界の自主ルールと違法な立ち退き強要の現状
公益財団法人日本賃貸住宅管理協議会の内部組織として発足した家賃債務保証事業者協議会は、平成18年7月、家賃債務保証業者相互において「業務適正化に係る自主ルール」を定め、加入事業者への遵守を求めています。
家賃債務保証業者を構成員とする別の団体であり、被告が加入する社団法人賃貸保証機構は、平成22年2月、「業務適正化に関する自主ルール」を定めています。
それにもかかわらず、家賃債務保証業者の担当者による違法な態様の賃料取立てや、立退き強要などに関する相談が、担当部局に相当件数寄せられていました。
国土交通省住宅局住宅総合整備課長は、平成21年2月16日、財団法人日本賃貸住宅管理協会に対し、家賃債務保証業者から提出を受けた契約書面に、
・文書の掲示等の手段により賃料の督促をすることを賃借人が承諾する条項、
・一定の場合に、家賃債務保証業者が物件に立ち入ることを賃借人が承諾する条項、
・一定の場合に、家賃債務保証業者に、物件開錠を阻害する権限を与えたり、物件の使用を禁止したりする権限を与える条項、
・一定の場合に賃貸借契約を解除する権限を家賃債務保証業者に付与する条項、
・明渡し未了時に、賃借人の意思に反して物件内に立ち入って動産を搬出等することを認める条項など、
法令に違反するおそれのある契約条項が見受けられたとして、業務の適正な実施の確保を求める文書を送付しています。
自力救済に関する条項ですね。
賃貸借契約の保証の実情
平成26年度に行われた公益財団法人日本賃貸住宅管理協会による調査報告書によると、住宅の賃貸人は、賃貸借契約の97%において何らかの保証を求めており、約6割が家賃債務保証業者を利用しているとされています。
そして、平成22年度における家賃債務保証業者の利用割合が約4割(39%)であったことと対比すると、高齢単身世帯の増加、人間関係の希薄化等を背景として、住宅の賃貸借契約における家賃債務保証会社の利用が増加傾向にあることがわかります。
住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律
平成29年10月25日、住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)の改正法が施行。
同法においては、住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸受託の登録制度を創設し、登録住宅に入居する住宅確保要配
慮者の家賃債務保証を行う家賃債務保証業者のうち、一定の条件を満たすものは住宅金融支援機構による保険が受けられることとされています。
また、近時、高齢者等の住宅確保要配慮者に住居を確保させるための施策として、Nm法人、社会福祉協議会又は一般財団法人高齢者住宅財団による家賃債務保証サービスの提供が行われており、地域の居住支援協議会や地方公共団体において、民間の家賃債務保証業者と協定を締結し、高齢者等の住宅確保配慮者を立像とした居住支援を実施する例があります。
家賃債務保証業者登録規程
国土交通大臣は、平成29年10月2日、家賃債務保証業者登録規程を定めています。
この規程は、家賃債務保証業を営む者の登録に関し必要事項を定め、その業務の適正な運営を確保することなどにより
賃借人等の利益の保護を図ることを目的とするものです。
この規程では、家賃債務保証業者は国土交通大臣の登録を受けることができることとし、その登録業者に対し、その登録申請の際、業務に係る内部規則、組織体制に関する事項や、求償権の行使方法に関する事項を記載した書類を提出すること(4条2項)、賃借人その他の者の権利利益を侵害することがないよう、適正にその業務を行うこと(11条)、契約締結前及び契約締結時の書面の交付、説明(17,18条)、求償権行使時の書面の交付等(19条)、帳簿の備付け(20
条)、求償権譲渡の規制(23条)などを義務付けています。
今回の被告は、家賃債務保証業者として国土交通大臣の登録を受けていました。
家賃保証契約の性質や趣旨は?
本件保証委託契約は、賃貸人と賃借人との間で賃貸借契約(原契約)が締結され、原契約賃借人のために個人保証人との間で連帯保証契約が締結されることを前提として、原契約賃借人が、家賃債務保証業者である被告に対し、原契約賃貸人との間で保証契約を締結することを委託し、原契約賃貸人と被告が連帯保証契約を締結することを主たる内容とする契約であると認定されています。
また、本件契約には、被告が、原契約賃借人に対する事前ないし事後求償権その他の債権に係る人的担保として、個人連帯保証人との間で連帯保証契約を締結する内容が含まれています。
そして、原契約賃借人と被告との間の保証委託契約に関しては、
原契約賃借人の被告に対する保証委託料の支払義務、
原契約賃借人の被告に対する各事由の通知のほか
本件の争点となった
被告解除権付与条項及び本件異議不存在確認条項、
事前通知義務免除及び抗弁放棄条項、
被告による明渡しみなし条項
が設定されています。
家賃保証業の機能は?
裁判所は、このような家賃債務保証業には次のような機能があるとしました。
賃貸人はその所有建物を賃貸するにあたって、賃借人の賃料不払による未収リスクを抱えており、賃借人の資力の有無に強い関心を有しています。また、個人保証を徴求しても、保証人自身から契約を否認され、または保証人自身の資力の問題で担保として機能しない場合もあります。
しかし、本件契約のような家賃債務保証契約を締結したときは、当該業者の資力に問題があるという例外的な場合でない限りは、当該業者から迅速、確実に滞納家賃を回収することができ、その賃料の未収リスクを大幅に低減することができるのです。
他方、賃借人の立場からすると、家賃債務保証業者による機関保証を受けることにより、賃借人自身の資力を補う信用供与を受けることができ、よって住居となる建物を賃借することが容易となります。
特に、賃借人側に、保証人となるような個人的関係者が存しない場合であっても家賃債務保証契約の締結により、個人保証人なしでの契約締結が可能となる場合もあり得ます。
契約の当事者双方にメリットがあるといえます。
賃借人の明渡協力義務?
本件契約18条の見出しは「賃借人の建物明渡協力義務」とされていました。
本件契約18条2項では、「賃借人は、原契約が終了するときは、賃貸人及び保証会社の立会いの下、速やかに本件建物を明け渡すものとする。」と定める本件契約18条1項に続いて定められています。
その文言は、原契約が終了したことは本件契約18条2項の要件となっていないことなどから、本件契約18条2項2号は、原契約が原契約賃借人の賃料不払等債務不履行を原因とする解除によって終了したか否か、原契約終了の前提となる解除の意思表示が有効であるか否かにかかわらず、本件契約18条2項2号に定める一定の要件を満たすときは、被告において、原契約賃借人において賃借物件の明渡しがあったものとみなす権限を付与することを約する条項であるということができると解釈しました。
被告において上記権限を行使したことにより賃借物件の明渡しがあったとみなされたときは、原契約賃貸人は、原契約が終了したか否かにかかわらず、賃借物件を第三者に賃貸することが可能となり、その前提として、原契約賃貸人自ら又は被告において、賃貸物件内及び駐車場、トランクルームその他の付帯施設内に残置した動産類を任意に外部に搬出保管する権限が付与されることとなります。
賃貸借契約が法的に終了していなくても賃借人からの明示の異議がない限り、被告において、明渡しを擬制することができるとする条項なのです。
このような前提からすると、同条項は、原契約を終了させ、原契約賃貸人及び被告が賃借物件内に存する動産類を搬出保管することにつき、原契約賃借人において異議を述べない旨、搬出の日から1箇月以内に引き取らないものについて、原契約賃借人に所有権を放棄させ、これを被告が随意処分することにつき、原契約賃借人において異議を述べない旨、搬出に係る動産類の保管料等の費用を原契約賃借人が支払うこととする旨を定めた条項であると解するのが相当であるとしています。
消費者契約法違反になるか?
では、このような条項は消費者契約法に違反するのでしょうか。
荷物処分について「異議を述べない」という文言の趣旨に、賃借人が、賃貸人及び被告による賃借物件内の動産類の搬出・保管及び随意処分の各措置を受けいれ、拒絶しないことが含まれることは明らかです。
この条項の適用により、いまだ賃貸借契約が終了しておらず、原契約賃借人の占有が失われていない場合であっても、被告等は、本件契約18条3項、2項2号に基づき賃借物件内の動産類の搬出・保管を行い得ることとなります。
このような行為は、原契約が終了しておらず、いまだ原契約賃貸人に賃借物件の返還請求権が発生していない状況で、被告等が自力で賃借物件に対する原契約賃借人の占有を排除し、原契約賃貸人にその占有を取得させることに他ならず、自力救済行為であって、本件契約の定めいかんにかかわらず、法的手続きによることのできない必要性緊急性の存する
ごく例外的な場合を除いて、不法行為に該当するとされます。
また本件契約19条1項は、被告が本件契約18条3項、2項2号に基づいて動産類を搬出・保管し、原契約賃借人が、搬出から1箇月以内に引き取らないものについて、被告が随意処分することに異議を述べない旨定めるものであり、これは、原契約が終了しておらず、原契約賃借人が賃借物件に対する占有を失っていない場合にも適用されます。
このような本件契約上の関連条項の文言に照らすと、本件契約18条2項2号は、被告等による上記の各措置が本件契約における債務の履行に際してされた原契約賃借人に対する不法行為に該当する場合であっても、賃借人にこれを理由とする損害賠償請求権を放棄させる趣旨も含むものと解するのが相当としました。
このような点から消費者契約法8条1項3号に該当する条項だとしました。
その結果、同条項の差止めを認めたという内容になっています。
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