FAQ
FAQ(よくある質問)
Q.標章を続用した会社への会社法22条の責任追及は?
企業への責任追及の際に、契約当事者ではない会社へも行いたいという相談は多いです。
そのような方法の一つに、商号続用を理由とした責任追及の規定である会社法22条1項を使うこともあります。
この規定は、類推適用が認められることもあり、商号続用以外のシーンでも検討に値します。
今回は、標章の一部利用によって、この類推適用が認められるか争われた東京地裁平成31年1月29日判決の紹介です。
事業譲渡があった場合に、譲受会社が、譲渡会社の利用していた標章の一部をその商号として用い、譲渡会社が利用していた各標章を用いて、同一の店舗等で、譲渡会社のブランドと同名称のブランドを展開し、それまでと同様にハワイアン雑貨等を販売していた場合に、譲受会社が会社法22条1項の類推適用によって譲渡会社の債務を支払う責任を負うかが争われました。
事案の概要
ある株式会社が、スポーツ用品の開発、企画、製造、販売および輸出入等をしていました。
この会社は、平成13年頃から「HH」「HL」「SC」の名称で、ハワイアン雑貨店を始めました。
百貨店やショッピングモールでも展開。
原告銀行は、この会社に平成20、23年に融資。
平成28年9月下旬時点で、各融資について、約2127万円、約3055万円が残っていました。
原告銀行は、残元本についての最終弁済期日を平成28年10月31日とする金銭消費貸借契約を締結。残元金合計は、約5182万円でした。
期日でも弁済はされませんでした。
この会社は、平成29年2月、被告会社との間で営業譲渡契約。
会社の有する商品、商標権、保証金・敷金、建物、備品、営業権等を譲渡しました。
被告会社は、譲渡元の登録商標である「HL」の一部である「L」をその商号の一部として使用。
ホームページでは、自社の商号を標章としていました。
さらに、被告会社は、ウェブサイト上で、取扱いブランドとして「HL」「SC」を掲げていました。
店舗展開でも、「HL藤沢店」のように、「HL」「SC」の標章が記載されたサインプレートを掲載し、ハワイアン雑貨等を販売。ネット上でも、「HL楽天市場店」等との名称の店舗を運営していました。
譲渡元の会社は、平成29年7月、原告銀行に対し債務整理の通知。
原告銀行は営業譲渡を受け、かつ標章を続用する被告会社に対し、会社法22条1項の類推適用を理由に、譲渡元に対する貸付金の残元金約5182万円及び遅延損害金の支払を請求して提訴。
裁判所の判断
原告の請求を認容。
会社法22条1項が、事業譲渡の譲受会社のうち、商号を続用する者に対して、譲渡会社の債務を弁済する責任を負わせた趣旨は、事業の譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合には、従前の営業上の債権者は、事業主体の交替を認識することが一般に困難であることから、讓受会社のそのような外観を信頼した債権者を保護するためであると解するのが相当、と趣旨確認。
そして、一般に、標章には、商号と同様に、商品等の出所を表示し、品質を保証し、広告宣伝の効果を上げる機能があるといえるところ、上記各名称に対応する標章についても、譲渡元のブランドの象徴として、事業主体を表示する機能を果たしてきたということができるとしています。
商号だけでなく、標章にも機能を認めています。
被告会社は、本件事業譲渡を受け、譲渡元が利用していた標章の一部をその商号として用いており、譲渡元が利用していた各標章を用いて、同一の店舗等において、譲渡元のブランドと同名称のブランドを展開して、譲渡元と同様にハワイアン雑貨等を販売しており、譲渡元という事業主体がそのまま存続しているという外観を作出しているということができるとしました。
以上によれば、被告会社による標章の使用等は、会社法22条1項の趣旨が妥当し、譲渡元の商号を引き続き使用する場合に準ずるものということができ、被告会社は、会社法22条1項の類推適用によって、原告銀行に対し、本件債務を譲渡元と連帯して支払う責任を負うというべきであるとしました。
会社法22条1項の責任
会社法22条1項は、事業を譲り受けた会社が譲渡元の商号を引き続き使用する場合、譲受会社も譲渡元の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うことにする規定です。
これは連帯責任となります。商号続用による責任といわれます。
その趣旨の考え方には争いがありますが、商号を続けて使用することで、債権者が、営業主体を認識することが困難なため、このような外観を信頼した債権者を保護の点にあるとする考え方が主流です。
会社法22条1項類推適用
この会社法22条1項は、商号の続用を問題にするものですが、他のシーンでも類推適用され、責任を負うことがあります。
過去には、商号以外でも、経営上の名称の継続使用で、類推適用により責任を負うケースもありました。
これに対し、本件で続用が問題になったのは、ブランドや店舗名の標章でした。
その標章の文言の一部が、譲受人の商号の一部に使用されたという事情はありました。
標章は、事業主体を示すことも、商品やサービス名称を示す場合もあります。
本件では、外観への信頼性という視点から類推適用を肯定し、責任を負わせたという内容です。
横浜駅近辺で会社法の責任追及等の法律相談をご希望の方は、以下のボタンよりお申し込みできます。