FAQ
FAQ(よくある質問)
Q.取締役選任合意の効力は?
同族会社等の支配権紛争で、役員選任が問題になることも多いです。
そのような中で、役員選任合意をし、その合意に拘束されるのではないかという相談もあります。
このような合意の有効性が争われた、東京地裁令和元年5月17日判決の紹介です。
事案の概要
ビル賃貸を目的とする株式会社がありました。
設立した2名は不動産の共有持分を現物出資。
その後、新たな株主が発行済株式総数の3分の1を取得。
設立に際し、3名の株主の間では、この3名が取締役となり「永久に当該会社の繁栄を計る」と合意されました。
当時の担当弁護士は、個人間の契約にすぎないこと、議決権行使を永久に拘束するものではない旨の書面を残しました。
その後、ビルの建替え方針をめぐり、意見が不一致となりました。
そこで、「契約書」を作成しました。
契約書には、新築ビルの建設計画や、3名の株主やその相続人、代理人を新たに取締役に選任し、今後は3名 (その指名された者を含む)を互選すること、累積投票で取締役を選任できるように将来定款を改正することを協議すること、「今回定めなかった事項は前回の契約を基にして、その都度上述の3名の取締役で協議してすすめてゆく」などが書かれました。
その後、平成26年3月まで、この株主家族から役員が選任されていました。
原告は、相続等によりこの株式を承継したものの、平成27年の定時株主総会で取締役に選任されませんでした。
過去の契約書によって、他の株主には、原告を取締役に選任するよう議決権を行使する義務があるとして、原告は、他の株主に対し、今後の株主総会において、同議案に賛成する旨の意思表示をすることを求めて訴えを提起。
過去にされた取締役の選任合意が法的拘束力をもつのか問題になりました。
裁判所の判断
請求棄却。
まず、本件取締役選任合意は、会社が新ビルを建築しようという場面において、新ビルに係る権利関係を確認した上で、その建築等を新たな取締役の下で促進すべく締結した契約書の中で、取締役の人選について具体的に定めたものであるから、法的拘束力を有するものと解するのが相当であるとしました。
仮に、本件取締役選任合意に法的拘束力を認めないのであれば、会社の取締役の選任が進まず、新ビル建築へ向けた業務が進まないという事態も生じ得るのであり、それでは本件契約書を締結し、取締役の人選について具体的に定めた趣旨に反すると前提を確認しました。
このような取締役選任合意も有効であるとの論理を展開しました。
本件取締役選任合意においては、少数株主が持株数に応じて取締役の人数を確保することについては将来の協議事項とされていたと解される上、本件新ビル契約書8条には「今回定めなかった事項は前回の契約を基にして、その都度上述
の3名の取締役で協議してすすめてゆく。」とあることに照らすと、本件取締役選任合意は、暫定的に合意したものと解するのも十分に可能であると解釈しました。
そして、この合意文言は「会社は本年5月末迄に取締役を改選し、三名を新取締役に選任する。我々は今后、会社の取締役は我々三名(その指名された者を含む)を互選する事に定めた。」というものであり、家や一族を意識した定めとはなっていないとし、新ビルの建築が完了し、その賃貸事業が長期間にわたって行われた後、それぞれの相続人の代に至った段階での会社の利益分配をも意識して、各家族から少なくとも1名ずつの取締役を選出する趣旨で本件取締役選任合意をしたとは解し難いと認定しました。
なお、新ビル建築に当たり、他の2の方針が一致し、一人が少数派に陥るおそれが生じたという事情は認められるものの、少数株主保護の制度である累積投票については将来の協議事項とされており、本件取締役選任合意は暫定的なものにすぎない可能性は十分にあることに照らすと、原告らが主張するような趣旨で本件取締役選任合意をしたとまで解することはできないと、この点も排斥されています。
結論として、本件取締役選任合意は、法的拘束力こそ認められるものの、暫定的な合意にすぎない可能性が十分に認められ、本件取締役選任合意の当事者において、それぞれの相続人の代に至った後も、本件会社の利益分配をも意識して、各家とから少なくとも1名ずつの取締役を選出する趣旨で合意したとまでは認められない、原告らの請求には理由がないと結論付けました。
取締役選任合意の法的拘束力
本判決では、取締役を選任するという、議決権を拘束する契約にも法的効力を認めた点が特徴的です。
これは、株主総会において、議決権をどのように行使するか、定めておくものです。
過去の裁判例では、このような合意について、紳士協定のようなもので、法的拘束力まで認められない、としているものもありました。
しかし、現在の学説では、株主間で議決権を拘束する契約もできるとされています。
本判決でも契約の有効性は認め、ただ、合意の解釈として限定し、請求を棄却しています。
議決権拘束のような契約の効力が、相続発生後も長期にわたり残ることが、当事者の意思に合致しないのではないかと考えたものと思われます。
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