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FAQ(よくある質問)

 

Q.出生届を怠ると過料の制裁が?

子を生んだ場合、出生届が必要です。

これを怠ると過料となるものの、父親による暴力が見込まれるなど、出せない事情がある場合にはどうなるのか争われたケースがあります。

東京簡易裁判所令和元年10月23日決定です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.8.7


事案の概要

被審人が、出生届を怠ったことが問われたものです。

現在の夫との間の子が平成24年に出生。

それにもかかわらず、その出生届を令和元年に提出。

届け出を怠ったことにより、同年9月11日、東京簡易裁判所において、過料の決定。

過料決定に対して、取消しを求めて異議を申し立てたという経緯です。

被審人が出生届を出さなかったのは、前夫からのDVが理由でした。

 

裁判所の判断

裁判所は、過料決定を取り消し、本件につき、被審人を処罰しないと決定しました。

 

被審人(届出義務者)が、子が平成24年に出生したにもかかわらず、その出生届を令和元年に出したことが認められ、戸籍法49条1項に定める期間内に届出をしなかったことは明らかであるとしつつ、上記の結論としたものです。

 

 

DV被害の認定

被審人は、前夫と平成6年に婚姻し同居していたが、婚姻後2、3年経過したころから、前夫は被審人に対し、威圧的な態度をとるようになり、気に入らないことがあると物を投げて窓ガラスを割ったり、壁を傷つけたりするようになりました。

その後、平成23年6月に前夫が食事の際に皿が少し汚れていることで、「俺を殺す気か。」などと騒いだことから、被審人は我慢ができなくなり、実家に戻り別居。

平成23年10月ころ、前夫からの電話で被審人に対し、今度見かけたら刺し殺してやるなどと洞喝されたため、前夫に対し心底恐怖を覚えたと指摘。


その後、別居前に被審人が署名し前夫に渡していた離婚届を、平成23年11月30日に前夫が役所に提出。

 

子の出産


被審人は、別居後、現在の夫と性的関係を持ち、同年10月5日ころ、子を妊娠。

待婚期間経過後の平成24年6月6日に現夫との婚姻届を提出。

 


被審人は、出産後、出生届を出すために役所に行ったが、その際、子が前夫の戸籍に入ってしまうと知らされました。

そして、前夫が出生の事実を知れば、被審人や子の所在を探し当てて、何らかの危害を加えてくるのではないかとの恐怖心から、被審人は出生届を提出できなくなったと認定。


その後、被審人は、子の出生届が出せないため、子が戸籍にも住民票にも載っておらず、その存在を認められていない、無戸籍の状態になっているという思いが常にありました。そのため、前夫の戸籍に子を入れないで、子の出生届を提出する方法がないものかと役所の法律相談に行くなど情報収集を行っていたが、なかなか良い方法が見つからなかったところ、平成30年になって、区役所から無戸籍児に関するパンフレットらしきものが送付されました。

その内容は、区役所に相談に来るようにとのことであったので、区役所に相談に行くと、東京法務局を紹介され、東京法務局では強制認知という方法によれば、前夫の協力を得なくても手続きが可能であるということを聞き、弁護士に依頼した上、東京家庭裁判所に対し、実父である現夫を相手方とした認知調停を申し立てました。


東京家庭裁判所は、令和元年6月7日、子が現夫の子であることを認知する旨の合意に相当する審判をし、この審判は同月26日確定。これにより、被審人は、出生届をしたという経緯。


以上のような事情を考慮すると、前記の期間にわたり出生届の提出をしなかったことについては、正当な理由がないとはいえず、本件では被審人を処罰しないのが相当とし、過料決定を取り消すこととしました。

 

 

300日問題

この決定は、DV被害を受けていたことなどを理由として、戸籍法49条の出生届を怠ったものの、同法137条の「正当な理由」があるとして、過料を取り消しました。

経過を見ると、前夫の戸籍に子が入ってしまうのが原因だと分かります。

いわゆる300日問題です。

民法772条2項により、婚姻解消後300日以内に出生した子については前夫の子と推定されます。そのため、前夫の嫡出子としての出生届となり、再婚後の夫の子や、母の非嫡出子としての出生届は受理されない扱いとなりあす。

子と前夫の戸籍上の関係を解消するには、前夫の子として出生届を提出した後、嫡出否認や親子関係不存在確認の裁判をします。この判決等を提出して、戸籍を訂正する扱いになりあす。

これらの裁判では、前夫を相手にします。

そのため、前夫からDVを受けていたような場合には、抵抗があるでしょう。

 

離婚後300日以内の出生でも、前夫を父としない出生届が受理されることもあります。

離婚後の懐胎であることを医師の証明した証明書を添付することで、民法772条1項の推定が及ばないとする扱いがあります。

今回のケースでは、このような対応ができなかったものと思われます。

 

認知手続による出生届

判決で触れられているように、前夫を父とする出生届を提出せずに、実父を相手方とする認知の手続によって現夫の子として出生届を提出する方法もあります。

しかし、この手続でも、前夫の手続保障の観点から、家庭裁判所が前夫を手続に関与させることもあり得ます。

 

このような場合でも、DV被害者の現住所秘匿によって、戸籍の附表の写し等の交付拒絶もありえます。

DVの事情を説明して、本件のように連絡を行かない形での解決ができるよう裁判所を説得する必要があるでしょう。

 

 

 

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