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FAQ(よくある質問)

 

Q.懲戒解雇で退職金は不支給、減額になる?

懲戒に関する相談もあります。

懲戒解雇のような処分を受けたケースでは、解雇の有効性の相談のほか、退職金の不支給決定に応じるしかないのか、という相談もあります。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.8.7


動画での解説はこちら。

懲戒解雇と退職金

懲戒解雇と退職金の不支給、減額についての話です。

会社によって、就業規則や退職金規定によって懲戒処分を受けたりとか懲戒解雇の場合には退職金を支給しないという不支給規定や、退職金を減額するという規定があります。


このような規定によって、退職金を不支給、減額されても、規定だから仕方がない、懲戒処分を受けたのだから仕方がないと諦める人もいます。

しかし、裁判例では、そのような結論に必ずしもなっていないです。

類似事案をチェックした方が良いでしょう。


裁判例では退職金の減額や不支給の規定があったとしても、退職金は、勤務期間の功労への対価という性質を持ちます。

懲戒事由があったとしても、従業員の功労、働いてきた貢献を抹消したり、減殺するほど信義に反する行為があるかどうかがポイントとされています。

今までの功労を抹消するくらいの行為があるのかどうか、その懲戒事由となった従業員の言動によって、減額や不支給が認められるかどうか変わってきます。


裁判例の中では、退職の際に引き継ぎをしなかった、管理職なのに1ヶ月職務を放棄したというケースで退職金の減額に関して50%減額をするのは多い、無効と認めたものもあります。

業務を放棄するようなケースで30%減額を有効としていたりする事例もあります。

不支給規定のような極端に厳しい規定だと、かなりの懲戒事由が必要とされそうです。

最近のケースを見ておきましょう。

横領行為で退職金不支給

大阪地方裁判所令和元年10月29日判決では、被告(郵便業等を営む法人)に勤務していた原告が、横領行為を理由に懲戒解雇され、退職手当不支給とされたというケースです。

原告は、横領行為が全ての功労を抹消する程の背信行為ではないと主張し、相当額である300万円程度は退職金として認められるとして請求したケースです。

裁判所は、不支給が相当として、原告の請求を棄却しています。

認定された横領行為は、平成23年5月中旬から平成24年11月上旬までの間に、当時の就業場所であった郵便局において、10回にわたり、1000円切手合計780枚を横領したというものでした。原告は、横領した切手を、遅くとも3日後くらいまでの間に、金券ショップで換金し、換金後の金員を、遊興費(風俗店、競馬)や借金の返済等に使用していました。

退職手当規程では、懲戒解雇された者には支給しないとの規定がありました。

社員就業規則にも、懲戒解雇は即時に解雇するものとし、退職手当は支給しないとの規定がありました。


他の懲戒事例との均衡等を見るに、被告は、金銭的な不正行為について、厳正な対応を行うこととしていると指摘。本件と同時期に発生した、平成24年1月から平成25年1月までの間に、都合3回、金額にして42万円を横領した現金出納事務従事者、平成24年5月から平成25年6月までの間に、都合13回、金額にして57万5000円分の切手を横領し、また、21万2500円分の切手を窃取した郵便窓口業務従事者、現金出納業務に従事中50万円を横領した現金出納責任者、のいずれについても、懲戒解雇をもって臨み、かつ、退職金不支給としているとしています。

退職手当の性質

退職手当の算出の際に、「退職日基本給の月額」が用いられていること及び本件退職手当不支給条項が定められていることからすれば、被告と原告との間の労働契約における退職手当は、功労報償的な性質を有するといえるが、退職手当の算出の際に、勤続期間が長くなればなるほど支給率が上昇する「退職事由別・勤続期間別支給率」が用いられていることからすれば、同退職手当は、賃金の後払い的な性質をも併せ持つというべきであるとされました。

退職手当が賃金の後払い的な性質をも有する場合には、従業員の退職後の生活保障の意味合いも有することとなるところ、このような性質を有するにもかかわらず、本件退職手当不支給条項を適用して退職手当を支給しないこととできるのは、当該従業員に、従前の勤続の功を抹消するほど著しい背信行為があった場合に限られると解するのが相当であるとしています。


被告は、郵便の業務、銀行窓口業務及び保険窓口業務等を営むことを目的として、日本郵便株式会社法に基づき設置された株式会社であり、切手の取扱いの不正は、被告の中心業務の1つである郵便の業務の根幹に関わる不正であり、原告が行った本件横領行為は、被告に対する直接の背信行為であって、極めて強い非難に値すると指摘。


原告は、約1年半の間に、10回にわたり横領行為を繰り返したものであって、出来心の範ちゅうを明らかに超えている上、月例の切手点検に時間がかかることを逆手に取り、また、原告が好意で協力を申し出ているのであろう、あるいは原告は虚偽の説明を行っていないだろうとの同僚らの信頼を裏切る形で、本件横領行為の隠ぺいを2年余りにわたって続けたのであって、原告の行為は、被告の従業員間の信頼関係にも亀裂を生じさせかねないものであり、悪質性が高いというほかないとしました。


本件横領行為による被害額は78万円であり、多額と認定。なお、原告は、被告の企業規模からすれば過大な損害を与えたとはいえない旨主張するが、使用者の企業規模が大きければ横領額が多くても背信性が弱まるとはいえないとしました。


本件横領行為は、正に原告が当時従事していた被告の中心業務の1つの根幹に関わる最もあってはならない不正かつ犯罪行為であり、出来心の範ちゅうを明らかに超えた被告に対する直接かつ強度の背信行為であって、極めて強い非難に値し、被害額も多額に上り、その後の隠ぺいの態様も悪質性が高く、動機に酌むべき点も見当たらないとしました。

原告に有利な事情を考慮しても、本件横領行為は、原告の従前の勤続の功を抹消するほど著しい背信行為といわざるを得ないとして、請求を棄却しています。

横領のような犯罪行為、しかも、職務に関する内容だと厳しい判断がされています。


では、職務外の事情ではどうでしょうか。

酒気帯び運転で5割

東京地方裁判所平成29年10月23日判決では、酒気帯び運転により店舗に衝突、損壊する事故を発生させ懲戒解雇された事案で、減殺の程度を5割と判断しました。


被告は、鉄道利用運送事業、貨物自動車運送事業、海上運送事業、利用航空運送事業等を営む会社であり、全日本空輸株式会社から空港における航空機の搭乗手続等の業務を請け負っている会社でした。

酒気帯び運転の態様としては、平成27年11月16日、公休日であったため、自宅において、昼頃から夕方頃まで、缶酎ハイ500ミリリットル2本及び350ミリリットル2本を飲み、翌日の早番(午前6時始業)に備えて、午後5時頃就寝。この際、医師から飲酒時の服用を禁止されていた精神安定剤を3錠服用。その後、原告は、同日午後8時頃に目が覚めたため、更に飲酒をした上、睡眠薬1錠と精神安定剤2錠を服用して再度就寝。


同月17日午前5時10分頃に起床したが、ふらつき感があり、発熱していたため、同日午前5時50分頃、勤務先に連絡して、同日は欠勤することとしたが、上記連絡後、更に飲酒。

呼気1リットルにつき0.5ないし0.55ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態であったにもかかわらず、平成27年11月17日、自宅から本件店舗まで、自己所有の本件自動車を運転した上、同日午前9時50分頃、同店舗駐車場において、同車を後退させて駐車しようとして運転を誤り、同店舗の正面玄関付近に同車を衝突させ、同店舗のガラス等を損壊する本件事故を発生させ、現場に臨場した警察官により飲酒検知を受け、その場で道路交通法違反(酒気帯び運転)により現行犯逮捕されたという態様でした。

刑事事件としては、罰金35万円とする略式命令となりました。

裁判所は、飲酒運転については、近時、厳罰化が図られてきたにもかかわらず、未だ悲惨な事故が後を絶たず、社会的非難が極めて強いところ、企業において、従業員に対し、飲酒運転の禁止を徹底させ、就業時間内における飲酒運転はもちろん、私生活上の非行である就業時間外の飲酒運転であっても厳罰をもって臨むことは、企業としての名誉、信用ないし社会的評価を維持するために当然認められなければならないとしました。

とりわけ、被告は、各種運送事業を目的とする国内最大手の運送業者であり、会社を挙げて飲酒運転を阻止すべきとの社会的要請も強く、このため、運送事業に従事する従業員か否かを問わず、就業規則84条2号ないし労働協約66条2号において、就業時間内外の飲酒運転を原則として解雇事由としていることは、必要的かつ合目的的であるとしています。

懲戒解雇処分としたことが重きに失するとはいえないと解雇や有効と認定。


退職金は、退職金基礎額(本給)に退職事由及び勤続年数によって定められた支給率を乗じた金額に高勤続加算を加えたり、確定拠出年金想定額を減じたりすることにより支給額が算出されることなどに照らすと、功労報償的な性格を有するとともに、賃金の後払いとしての性格をも有するものと解されると認定。

そうすると、労働者に退職金不支給条項に該当する事由が認められるとしても、直ちに退職金全額の不支給が認められるわけではなく、退職金の不支給ないし減額が正当化されるのは、当該労働者において、それまでの勤続の功を抹消または減殺するほどの著しい背信行為が認められる場合であると解するのが相当であるとしています。

本件酒気帯び運転は、その態様が悪質であり、その行為に至る経緯に酌量の余地はなく、結果も重大であること、原告は、酒気帯び運転により、現行犯逮捕され、実名で新聞報道がされるなどしており、その社会的影響も軽視することはできないことが認められるものの、他方、本件懲戒解雇処分における解雇事由は、私生活上の非行に係るものであること、原告は、本件酒気帯び運転まで、被告において、26年以上の長期にわたり、懲戒処分等を受けることなく、真面目に勤務してきたこと、本件酒気帯び運転や本件事故について素直に認め、本件店舗に直接謝罪をするとともに、自ら加入していた自動車保険を利用して被害弁償をして示談し、宥恕されていること、被告に対しても謝罪し、自ら退職願を提出していること、原告が被告の従業員であったことまでは報道されておらず、被告の名誉、信用ないし社会的評価の低下は間接的なものにとどまることが認められると指摘。


rこれらの事情に加えて、被告は、原告の持病の治療や父親の看護等を慮って、懲戒委員会の開催を遅らせるとともに、処分決定までの間、原告を無給の休職とすることなく、自宅待機を命じ、基準内賃金等を支払っていたことなどの事情を総合すると、本件酒気帯び運転が原告のそれまでの勤続の功労を全て抹消するものとは認め難いものの、大幅に減殺するものといえ、その減殺の程度は5割と認めるのが相当としました。


明確な基準があるわけではありませんが、類似事例では参考にしてみてください。


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