FAQ
FAQ(よくある質問)
Q.名の変更は、性同一性障害の場合、認められやすい?
性同一性障害と名の変更が問題になった事件です。
名の変更許可申立却下審判に対する抗告事件。
大阪高等裁判所令和元年9月18日決定です。
事案の概要
申立人は、自らの性別や男性としての身体に違和感を覚え、平成17年ころ、病院精神科を受診し、性同一性障害と診断されました。
しかし、経済的理由から治療を継続できませんでした。
平成27年頃から、個人輸入で婦人ホルモン剤を取得して使用を始め、平成28年5月2日には病院に通院を開始し、性同一性障害との診断を受けて1年以上の間、ホルモン治療を受けました。しかし、体調不良により治療を中断。
平成28年12月13日、大阪家庭裁判所に、性同一性障害であることから、使用する名前を「B」から本件と同じ「C」に変更したいことを理由として、定期券や給与明細書等の資料を添えて、名の変更許可審判の申立てをしました。しかし、平成29年1月17日、上記申立てを取り下げ。Cは女性名です。
その後、平成29年頃から心療内科・精神科に約1年半通院して、医師2名から性同一性障害の診断ガイドラインに沿った診断の結果、性同一性障害であることの診断書(平成30年7月13日付)を得ました。
そして、令和元年6月10日、大阪家庭裁判所に対し「B」から「C」に名の変更の許可を求める申立てを再度したという経緯です。
その資料として、勤務先の給与明細書(平成28年6月分から同年11月分まで)、国民健康保険被保険者証(交付年月日令和元年5月7日)、通勤定期券(平成29年3月1日から同月31日まで)、医療機関の受診時の氏名、ハローワークカード(平成29年5月26日付)、ポイントカード、就職先との「期間従業員雇用契約通知書(平成31年2月27日付)」等を提出。
家庭裁判所の判断
「C」の名が申立人の通称として社会的に定着していると認められないことと、申立人の病歴、受診歴、通院治療の状況等を併せて考慮し、戸籍法107条の2にいう「正当な事由」があると認められないとして、その申立てを却下しました。
その使用実績をみても通称として永年使用され社会的に定着しているとまでは認められないとした判断です。
申立人は不服申立てとして抗告。
高等裁判所の判断
原審判を取り消し。
申立人の名「B」を「C」に変更することを許可するとの決定です。
申立人は、性同一性障害について診断ガイドラインに沿って診断を受けており、生物学的な性と心理的・社会的な性意識としての性が一致せず、その不一致に悩み、生活上の不便が生じていると指摘。
申立人は、その不便を解消するために、持続的な確信を持つ心理的な性に合わせた名「C」の使用を平成28年6月から開始し、その名は、勤務先や通院先など社会的、経済的な関係において、継続的に使用されていると認定。
このような事情の下では、申立てには、戸籍法107条の2にいう正当な理由を認めることができるとしました。
正当な事由とは?
戸籍法107条の2所定の「正当な事由」があるかどうか判断する際には、複数の要素が考慮されます。
通称名の永年使用による実績や社会的経済的な定着が重視されます。
しかし、本件では、それ以外に医学的な問題があります。
性同一性障害により、不一致に悩み、生活上の不便が生じているという問題です。
性同一性障害のようなケースでは、実際の不便を重視して、使用実績だけで判断するのは問題でしょう。
性同一性障害からの不便を解消するために通称名を使用しているのであれば、その期間は他の事例より短くても、正当な事由を肯定しても良いと感じます。過去の裁判例でも同様の判断をしているものがあります。
逆に、会社等で通称名を使用していると、戸籍名を使用する方が混乱を招くことも多いでしょう。
「正当な事由」については、このように、家庭裁判所と高裁で判断が変わるということもありますので、参考にしてみてください。
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