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FAQ(よくある質問)

 

Q.鑑定拒絶されても成年後見人は選任される?

親の財産管理をめぐって、鑑定拒絶までされ、成年後見人の選任で争いが起きる事件も多いです。

兄弟姉妹が暴走するようなケースで、このような争いになります。

今回、家庭裁判所と高等裁判所で判断が分かれた事例を紹介します。

大阪高等裁判所令和元年9月4日決定、原審は京都家庭裁判所令和元年7月4日審判です。

最終的には、成年後見人を選任という判断がされています。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.8.7


事案の概要

長男からの成年後見の申立がされました。

本人は、87歳。グループホームに入所。

申立時に提出された診断書では、本人の判断能力について、「自己の財産を管理・処分することができない。(後見開始相当)」旨の意見が記載されていました。


ア 診断名:老人性認知症
イ 日常生活の状況:部分介助(入浴、更衣等)
ウ 発語:不能
エ 意思疎通:可能(なお、本件診断書には、意思疎通の手段として「言語」、「動作」、「筆談」、「その他」のチェック欄の中から「言語」が選択されている。)

等の記載でした。回復の可能性はないとされていました。

 

別に、老人性認知症で加療中であるが、精神の状態としては、言語による意思疎通が可能である旨の記載のある診断書も提出されていました。

家庭裁判所は、家庭裁判所調査官に対し、本人及び親族(長女)調査を命じたところ、本人は、本人の代理人弁護士を通じて調査に応じることを拒否する旨の意向を示したため、調査官による本人調査は実施されていないという経緯です。

また、長女は、調査において、本人が十分な判断能力を有していることなどを理由に後見開始に反対する意向を示していました。

裁判所には、本件申立てに反対する意向が記載された本人名義の手書きの書面が2通提出。

申立人に対して「ぼけてはいない」という趣旨の訴えを記載した書面も提出されているところ、一件記録上、これらの書面が偽造されるなどしたことをうかわせる事実はありませんでした。

本人が拒否しているため鑑定も実施されませんでした。

家庭裁判所の判断

京都家庭裁判所令和元年7月4日審判では、申立てを却下するとの判断がされました。

後見開始の審判をするためには、本人について、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあることが必要です。

この点、本件においては、本人について、後見開始相当である旨の意見が付された医師作成の本件診断書が提出されています。

しかしながら、本件診断書の記載(自己の年齢および日時について回答が不可であったことや、理解力・判断力について「理解不能」である旨の記載、HDS-Rの点数等)に照らすと、本人について認知症により事理を弁識する能力が一定程度低下していることはうかがわれるものの、かかる記載から、本人について、直ちに後見開始相当の常況にあるとまで認めることは困難としました。


加えて、本件診断書には、一方で「発語不能」としながら、他方で、言語による意思疎通が可能であるともされており、一見して明らかな矛盾があるというべきであると指摘(なお、本件診断書には、意思疎通の手段として、「言語」、「動作」、「筆談」、「その他」のチェック欄の中から「言語」が選択されていることから、例えば、発語はできないが、筆談など発語以外の方法により意思疎通が可能である趣旨での記載であるとも認められない。なお、その後、本件診断書を作成した医師は、本人について「精神の状態としては、言語による意思疎通が可能である。」旨の記載がある本件第二診断書を作成しており、これに照らすと、発語不能である旨の記載は誤りであったことが疑われる。)から、本件診断書は、その信用性に疑義が存するというべきであるとしました。

そうすると、本件診断書から、本人について、後見開始相当の常況にあると直ちに認めることはなおさら困難というべきであると指摘。


さらに、本件においては、本人が作成したことがうかがわれる本人名義の書面が提出されており、かかる書面の存在からも、本人が後見開始相当の常況にあるか否かについては相応の疑義が存することは否定できないとして、鑑定が実施できない以上、本人が精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあると認めることはできず、したがって、本件について後見開始の審判をすることはできないとして、申立を否定しました。

 

高等裁判所の判断

大阪高等裁判所令和元年9月4日決定は、原審判を取り消し、京都家庭裁判所に差し戻すとしました。

 

高裁では次の事実が確認、認定されました。

本人は、昭和32年10月30日、亡夫と婚姻。

昭和33年、長男である抗告人を、昭和37年、長女をそれぞれもうけたが、亡夫は、平成30年に死亡。

 

本人は、平成23年ころ以降、物忘れが目立つようになり、抗認知症薬を処方されていたが、その後も認知症が進行し、平成28年8月18日に施行された長谷川式簡易知能評価スケール(以下「HDS-R」という。)の結果は、30点満点中13点。

本人は、平成29年9月14日以降、認知症対応型共同生活介護適用施設(グループホーム)に入所。

平成30年9月20日ころ、要介護3の認定。

長女は、上記施設内に居住し、不動産、預貯金、有価証券等の本人の財産を事実上管理。

 

本人は、宅地(地積合計326.80平方メートル)を所有し、本件土地を駐車場として賃貸して月額二十数万円の賃料収入を得ていたが、長女の勧めにより、平成30年9月30日、本件土地上にマンションを建築する請負契約を締結。


抗告人(長男)は、平成30年12月17日、本件申立てをし、そのころ、上記マンション建築の請負業者に対し、建築計画を中止するよう申し入れました。

本人は、平成31年1月末をもって上記駐車場の賃貸借契約をすべて解約。

そのため、年金収入(月額約14万円)だけでは施設費(月額約18万円)を賄えなくなりました。

 


後見開始の審判をすべきか否かについて

本件診断書の内容によれば、本人は、老人性認知症に罹患し、HDS-Rの結果は30点満点中11点であり、しかも、自己の年齢、日時、場所すら回答できない状態であり、記憶力、見当識が著しく低下し、理解・判断力もほとんど喪失していることは明らかであると診断書の記載に着目。

 

本件診断書において、発語欄には発語不能にレが付されている一方、意思疎通欄には可能および言語にレが付されており、発語不能であるのに言語による意思疎通が可能である旨の矛盾する記載がされているが、医師は、自らHDS-Rを実施して本人から回答を聴取し、本人が発語することができることは当然認識していたはずであるから、発語不能にレを付したのは、単なる誤記にすぎないと認められ、これをもって本件診断書の信用性が損なわれるものではないと指摘。


加えて、認定事実から、鑑定を俟つまでもなく、本人は、認知症が高度に進行し、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にあるということができると認定しました。


ところで、本人は、87歳という高齢であるにもかかわらず、本件土地上にマンションを建築してリスクの高いマンション経営を始めようとしたり、そのために駐車場の賃貸借契約を解約して月額二十数万円の賃料収入が得られなくなり、年金収入だけでは施設費を賄えなくなったりしている点にも言及。このような行為は、本人の生活状況に照らし、およそ経済的合理性がないものといえると指摘しています。


そうすると、本人は、各書面において「自分のものは自分で守ります。」などと述べているようであるが、上記のとおり、本人の精神状況や行為からすれば、本人自ら上記各書面を記載したのか、そうであるとしても、本人がその意思に基づいて自己の財産状況や後見制度の趣旨を理解した上で記載したのかは極めて疑わしいものであって、上記各書面によって本人について後見を開始する必要性の判断が左右されるものではないというべきであるとしました。

 

成年後見人の選任について

本人は、長女の勧めにより、本件土地上にマンションを建築する請負契約を締結し、駐車場の賃貸借契約を解約して賃料収入を失い、収支状況の悪化を来たしている上、抗告人と長女との間には、上記マンション建築や本人の後見開始を巡って意見の対立があると認定。


したがって、本人について後見を開始するに当たっては、公正中立な立場で本人の財産を適切に管理することができる専門職の成年後見人を選任する必要があるとします。

しかるに、原審裁判所は、本人について後見開始の審判をすることができないとして本件申立てを却下し、成年後見人の選任について全く審理をしていないので、この点について原審裁判所に更に審理を尽くさせる必要があるとし、京都家庭裁判所に差し戻しました。

専門職の成年後見人選任であれば、高裁よりも、事件が多い家庭裁判所に対応させるのは通常といえるでしょう。

 

 

成年後見人と鑑定

成年後見人の選任と鑑定については法律に定めがあります。

家庭裁判所は、成年被後見人となるべき者の精神の状況につき鑑定をしなければ後見開始の審判をすることができない(家事事件手続法119条1項本文)としています。ただし、明らかにその必要がないと認めるときは、この限りでない(同条項ただし書き)ともされています。

 

以前は鑑定が実施されていましたが、最近は、家裁書式に基づく医師の診断書がある場合には、鑑定までされずに成年後見人が選任されることがほとんどとなっています。成年後見人に選任される事件でも、鑑定結果を見ることはほとんどなくなっています。

主治医の診断書のほか、調査官が本人と面談し、明らかに意思疎通できないという場合も、同様に、鑑定がされないことが多いです。

ただ、本件のように、医師の診断書が微妙だけど、本人が鑑定を拒否している場合に、どうすべきかは問題になります。

本件では、鑑定を拒否しており、実施できないことから、鑑定不要とまで判断しています。

 

親族間対立があると、このような拒絶が起こりえます。

財産を巡っての対立で、遺産分割の前哨戦ともいえる対立です。

なお、財産の保全の必要性があり、成年後見人選任まで待っていられないという場合には、審判前保全処分という選択肢もあります。

 

 

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