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FAQ(よくある質問)

 

Q.やり投げ事故の責任は?

法律相談では、スポーツ事故の責任という問題もあります。

いろんな分野のスポーツで損害賠償請求の裁判は起こされていますが、今回、陸上競技のやり投げでの事故を取り上げてみます。

金沢地方裁判所平成4年4月24日判決です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.8.7

事案の概要

陸上競技場において、金沢市陸上競技協会が主催する第一二回金沢市陸上競技選手権大会及び第一六回金沢市陸上カーニバルが開催。当日は相当ひどい横なぐりの風雨もあった天候。

原告は、当時金沢市立高岡中学校一年在学中。

本件大会には砲丸投げ選手として出場。

被告は、当時金沢大学一年在学中で、ヤリ投げ選手として出場。

 

被告が手に持っていたヤリ投げ用のヤリが原告の左目付近に突き刺さり、原告の左前頭蓋底から右前頭葉にまで達するという事故が発生。

原告は、右事故の結果、左眼瞼挫創、脳挫傷、右急性硬膜下血腫の傷害を負い、148日間、石川県立中央病院に入院。退院後も通院を余儀なくされたました。

原告の現状は、左上肢及び右下肢の運動不能による歩行障害によって彼行し、起立も不自由であるほか、視力の低下・複視、排便障害などがあって、日常生活に多大の支障をきたしており、家族の協力を必要としているというもの。

 

やり投げ事故の態様

ヤリ投げ選手としては、例えばこれを地面に垂直に保持し、かつ、自分の前後左右の他人の動静を十分に確認するなど細心の注意を尽くすべき注意義務があったところ、被告は、本件事故現場において、ダックアウトから競技場に出て来るに際して、ヤリを地面と垂直になるように保持せず、ヤリ尻が自分の身体の斜前方に位置するように保持し、かつ周囲の安全を確認することなく、右競技場内を走って同被告の近距離に接近して来ていた原告の方に漫然振り向いたため、この過失により、ヤリ尻が原告の左目付近に向けて動く結果となり、これを突き刺してしまったものだと原告は主張。

これに対し、被告は、事故の態様は、競技に赴くべくヤリを携えていた被告の身体と原告とが衝突し、そのはずみでヤリ尻が原告の顔面に当たったというものだと主張。

さらに、一般に、スポーツ競技会においては、競技主催者のみならず、参加した競技者においても、競技及び競技場使用に関するルールや主催者側の指示を遵守し、自己及び他の競技者の競技に内在する危険を予知ないし回避し、安全を保持する義務を負うものであり、特に競技者相互間では、競技中ないし競技開始直前の競技者が極度に緊張していることを十分に認識した上で、その妨げになるような行為を慎むべき義務を負っていると指摘。また、競技参加選手としては、競技場内においてトラック以外の場内を走らないこと、場内移動にあたってはダッグアウトを利用すること、試技中又はその態勢に入ろうとしている選手の競技を妨げる行為をしてはならないこと等は当然のマナーとして心得るべきことであるとも指摘。

しかるに原告は、付近で競技が行われているときに、グランドからその外へ出るにはダッグアウト内又はスタンドの通路を通行すべきであるのに、場外部分を走り抜けようとし、審判員が競技開始前に原告ら砲丸投げ選手に対してヤリ投げ競技の競技場や選手待機場所には行かないこと等を注意したにもかかわらず、これに違反してヤリ投げ競技場に走って近づき、審判員の許可なく移動してはならないのに、これに違反し、ヤリ投げ競技場付近ではヤリを持って行き来する選手がいたのであるから、そこを通行するにあたってはヤリ投げ競技参加選手の動静に十分に注意し、周囲の安全を確認すべきであったのに、漫然といきなり走りだし、以上の自らの不注意により衝突したものだと全面的に反論しました。

さらに、本件事故当時、原告の陸上競技選手としての知識、危険に対する予知ないし認識能力は成人に準ずるものであったのに、原告は自ら危険に接近したと評価すべきであって、原告が本件事故発生に寄与した割合は、少なくとも九〇パーセントを下らないと過失相殺の主張までしました。

 

裁判所の認定した衝突態様

裁判所は、証拠から、接触直前の原告と同被告の位置関係は、同被告の身体の右側部分に原告の身体の正面が向かうというものであったことが認められるとしました。


次に、本件事故当時、同被告は右手にヤリを持っていたこと、その保持の態様は、ヤリ先が同被告の右後方の地面を指し、ヤリ尻が同被告の右前方の空を指す形で、ヤリのほぼ中央付近を握り、同被告の右腕側の脇を体に付けるような感じであって、その前腕はまっすぐ前方か、あるいはそれより多少上か下に曲がっている程度であったことが認められるとしました。

したがって、ヤリの先と尻を結ぶ線は同被告の身体の右側面においてその身体の前後方向に沿うような位置にあったことになるとしました。換言すれば、同被告の身体の前側で、ヤリ先が左前に、ヤリ尻が右前になるような、すなわち身体の左右方向に沿うような位置関係ではなかったことになるわけであると指摘。


次に、原告の当時の身長は一六五センチメートルであったことが認められ、原告と被告との接触の直前同被告が右方向へ、すなわち原告のやってくる方向に振り向いたことが認められ、この動作に伴って同被告が右手で保持していたヤリの尻が原告の顔面に向く位置関係になったことが認められるとしています。

この点について、同被告はその本人尋問において必ずしも明言していないけれども、その供述全体を総合すると、振り向いた可能性を否定しているわけではないと指摘。

加えて、同被告が本件事故直前原告が走ってくる方向へ向き直ったかどうかは、同被告が手に持っていたヤリの尻が原告の目の高さに位置していたからこそ本件事故が生じたという、現実の事故態様から合理的に考察すべきものであるところ、前述のとおり、同被告がヤリを右脇に沿うように携えていた以上、同被告において原告の来る方向へ向き直らないかぎり、ヤリ尻が原告の目に突き刺さるという本件事故は通常発生するはずがないといえるからであると、結果からの認定をしています。

衝突という被告の主張は否定しました。

 

陸上競技者の動き

過失の判断に先立ち、競技が行われている場合の関係者のマナーについて判決では触れています。


本件大会において、競技が行われている場合、当該競技の選手以外の者は、当該競技が優先して行われるよう配慮するのが当然のこととされていたこと、もとよりこのことは本件大会に参加していた陸上選手の常識であったといえること、そのため競技中は必要のない限りトラック及び場外部分に出ることは控えるべきこととされていたこと、トラック等を横切る必要がある場合にも可及的に最短距離で横切るべきものとされていたこと、トラック以外の場内は走らないようにすべきものとされていたこと、以上の事柄は各学校における陸上部員やその指導者らないし陸上選手ないしその関係者ら一般に対し日頃から注意されていたものであること、以上が認められるとしています。

 

次に、ダッグアウトの利用についてです。

本件大会の開会式において、審判長から競技場への入退場はダッグアウトを利用するよう特に何回も注意されていたこと、原告自身も通常の場合ダッグアウトを利用して移動するようにしていたものであること、本件大会の砲丸投げの審判員は、原告ら砲丸投げ競技の選手に対して、ヤリ投げ競技が隣接して行われていたことからヤリ投げの助走路に入らないようにという具体的な指示を特にしていたこと、にもかかわらず、本件事故の際原告がダッグアウトを利用せず場外部分を通行したのは、たまたまその当時激しい降雨があったためダッグアウト内が混み合っている様子に見えたからであること、ダッグアウト内を通行して移動すべきものとする前記の指示は必ずしも大会参加者全員に徹底していたわけではなく、これに従わない者が僅かにあったようであるが、本件事故当時においては、かなりの降雨があったため、場外部分を通行する者はほとんどいなかったこと、と認定しています。

 

本件事故時、被告はヤリ投げ競技の第三投目のためのコールを受けて、これから開始すべく場外部分から助走路の方に移動し始めたところであったところ、証拠並びに経験則によれば、陸上競技の選手はその具体的な現実のプレーを開始する前からプレーに向けて既に極度に緊張している状態にあること、本件事故当時被告も既に自分の第三投目の競技に神経を集中させ、極めて緊張した状態にあったこと、そのような状態にある選手にとってプレーと直接関係のない事柄について注意が薄れる結果となることはやむを得ないことであって、陸上競技の大会において、これに参加した関係者一同に了解されている道理であること、そうであるからこそ、当該競技者以外の関係者において、そのような選手のプレーを妨げないように注意を払うべきことは当然視されていたこと、認められるとしました。


ヤリの持ち方

証言及び弁論の全趣旨によれば、同証人は、日本陸上競技連盟の終身第一種公認審判員の資格を有するものであるところ、ヤリ投げ競技用のヤリを普通に片手で持った場合、地面に対して約四五度を指すような状態になり、ヤリ尻が大体目の高さになるけれども、同証人の従来の経験ではそれによって他人に傷害を与えたということはなく、危険を感じるような事態に遭遇したことのなかったこと、ひいては、周囲に他人がいるなどの場合を除いて、一般的にヤリを地面に対し垂直に保持しなければならないといえるほどの確固たる原則がヤリ投げ競技関係者間に確立していたわけではないことが認められるとしました。


また、原告は、本件事故の一因として、被告がヤリをダッグアウト内へ持ち込んでいた点を指摘するが、雨の日はヤリの握りの部分が滑らないようタオルで拭く等のために、ヤリ投げ選手がヤリをダッグアウトの中に持って入ることは許されていたことが認められるとしています。そして、被告がダッグアウトにヤリを持ち込んだことと本件事故の発生との間には、単なる条件関係があるだけであって、何ら相当因果関係を認めることができないとしました。

 

やり投げプレーヤーの過失?


まず、本件事故の際被告が携えていた本件ヤリは、鋭利な両端を有する器具であって、それを手にしている場合、近傍の他人の身体に対して危害を及ぼすおそれのあるものであり、このことは、同被告のみならず、原告本人を含めて本件大会関係者らの誰しもが容易に認識できたものとしています。


しかしながら、本件事故の現場は、少なくとも各選手によるヤリ投げ競技が現に実施されている最中においては、他の選手ないし大会関係者らはこれを妨害してはならず、競技選手の集中を妨げないためその付近を通行してはならなかった場所であったこと、仮にやむを得ず通行する場合にも、あくまでもプレーが優先されるべきであって、プレーに伴って通行者側に生じる抽象的危険は通行者側において回避しなければならなかったこと、そして、陸上競技場内という場所柄からして、競技関係者以外の者が右の付近を通行することは予定されていなかったものであって、競技関係者であれば前示のようなマナーを当然身につけているものと競技者側が期待することが許されていたこと、また、現に、本件大会当日も参加選手に対して、移動に際してはダッグアウトを利用すべきことの指示があったこと、しかも、本件事故当時相当の降雨があったことも加わって、競技関係者は一般にダッグアウトを利用して移動しており例外の者はほとんどいなかったことという状況であったと認定しています。


このような状況下にあって、被告は、まさにブレーに入るべく助走開始地点に向かって歩き始めたところであって、先に認定したとおり助走開始地点まで二〇メートルほどの地点にあって、一分ほど後には現実にヤリを投擲しなければならないという状況にあったことに照らずと、未だ助走を開始していないという意味でプレーそのものは開始されていなかったにせよ、プレー開始寸前特有の緊張状態にあったものであり、かかる状態にある競技選手は、現に認識予見し、又は特に予見できた危険があった場合は別として、単に抽象的に前示の趣旨での危険性を有する器具を保持しているからといって、プレー寸前の選手の行動領域に第三者が急に進入してくることまで予想して、すなわち、自己の競技へ集中する一方で、さような不心得な偶発的第三者がありうることまで予想して、万全を期すべき注意義務までは負っていないものというべきであるとしました。

けだし、大会選手として競技に「集中」しなければならない競技者に対し、そのような偶発的事故の発生まで回避すべきことを要求するのは、結局この「集中」を許さないに等しく、酷であるからであるとしています。

原告は砲丸投げ選手の一人として本件大会に参加したものであって、移動に際してはダッグアウトを利用すべきことを知っており、かつ、当時もその旨の注意を受け、また隣接して行われていたヤリ投げ競技の助走路に入らないようにという具体的な指示をも受けていたこと、にもかかわらず原告が不幸にして駆け足でかつうつむき加減の姿勢で被告の方に接近してしまったのは、おそらく当時相当の降雨があったためであり、右のようにして進路前方をよく見ずに走ったため、同被告がヤリを保持して助走路に向かってゆこうとしているのを見ていなかったものであろうこと、他方被告は競技寸前であったが、ヤリをことさら他人に危険な方法で保持していたわけではなく、自己の視線外から自分に急接近してくる者の物音に一瞬驚き、その方向に僅かに振り向いたため、ヤリが原告の方に向いてしまい、本件事故が発生してしまったこと、以上のとおりと認められ、以上の本件事故にかかる前記諸般の事実関係を総合すると、本件事故を回避すべき注意義務は、被告との相対的関係において、もっぱら原告にあったものといわざるを得ず、本件事故の発生につき、被告に注意義務違反があったとする原告の主張については、証拠上これを認めることができないと結論づけました。

原告は、学校関係者や主催者の責任も主張していましたが、排斥されています。

競技に関して、大きなケガをしてしまった原告としては、誰かに責任を負わせたかったかのように見えますが、原告側の注意義務違反ということで、すべて否定されています。

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