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FAQ(よくある質問)

 

Q.年金が入金された預金口座の差押は許される?

預金口座の差押自体は禁止されておらず、原則は許される、例外的に違法という回答になります。

最近では、財産情報を把握している税金による差押で問題になることが多いです。

前橋市による預金差押が争われたケースを紹介しておきます。

東京高裁平成30年12月19日判決です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.8.7


事案の概要

原告は、平成28年4月15日当時、平成27年度第3期・第4期の固定資産税合計2000円を滞納。

処分庁である前橋市は、平成28年4月15日、原告名義の普通預金口座に係る預金債権のうち2000円の払戻請求権を差し押さえ。

本件預金口座の残高は、同月14日時点では465円。

翌15日に国民厚生年金8万9616円が振り込まれました。

 

市長は、同日、本件預金債権から2000円の支払を受け、同金員を取り立て、同年5月2日、2000円を前橋市に配当。

本件滞納税に充当。


原告は、本件各処分について審査請求をしましたが、却下裁決。

平成29年3月10日、前橋市を被告として、本件各処分および本件裁決の取消しを求めるとともに、不当利得返還請求権に基づく2000円および遅延損害金の支払、および国家賠償法1条1項に基づく慰謝料請求の訴えを提起。

 

地方裁判所の判断

本件各処分の取消しに係る訴えは、本件各処分の取消しにより回復すべき法律上の利益はなく不適法であるとして却下。

本件裁決には裁決固有の暇疵がないことから理由がないとしています。

しかし、原告が平成27年度固定資産税第3期分および第4期分の督促状が送付された際には特別養護老人ホームに居住しており、督促状が居住実体のない住民票上の住所にある自宅に送付されていたことから、本件差押処分が有効な督促手続を欠く違法なものであること、前橋市長は、本件差押処分に係る本件預金債権の原資のほとんどが客観的には本件
年金であることを知り、または、少なくとも知り得べきであったというべきであることから、本件差押処分が、地方税法373条7項が準用する国税徴収法77条1項および76条1項に反する脱法的な差押処分であり違法であると判断し、原告の請求を認容。

手続き面での違法と、年金を原資とするから違法という2本の理由です。

前橋市が控訴し、原告が附帯控訴。

 

高等裁判所の判断

原判決中、前橋市敗訴部分を取り消し、附帯控訴を棄却。

督促手続の違法性について、本件各処分に係る滞納処分より前に滞納処分が行われたものを除き固定資産税が任意に納付されていたこと、平成27年11月20日の成年後見開始の審判においても原告の住民票上の住所が住所とされていたこ
とから、督促手続は適法としました。

もっとも、本件差押処分が実質的に差押禁止債権である年金を対象としたものであったかについて判断されました。

 

裁判所は、原則として、年金等に基づき支払われる金銭が金融機関の口座に振り込まれることによって発生する預貯金債権は、直ちに差押禁止債権としての属性を承継するものではないというべきであるとしています。

もっとも、年金等に基づき支払われる金銭が受給者名義の預貯金口座に振り込まれた場合であっても、国税徴収法77条1項及び76条1項が年金等受給者の最低限の生活を維持するために必要な費用等に相当する一定の金額について差押えを禁止した趣旨はできる限り尊重されるべきであるから、滞納処分庁が、実質的に法77条1項及び76条1項により差押えを禁止された財産自体を差し押さえることを意図して差押処分を行ったといえるか否か、差し押さえられた金額が滞納者の生活を困窮させるおそれがあるか否かなどを総合的に考慮して、差押処分が上記趣旨を没却するものであると認められる場合には、当該差押処分は権限を濫用したものとして違法であるというべきであるとしています。

 

税金の差押では、このような基準が打ち出されることが多いです。

 

次に、本件差押が年金差押を意図しておこなったといえるかどうかの認定です。


前橋市の担当者において、直近で本件預金口座の取引履歴を確認したのは平成27年6月8日。

同日までの取引をみると、入金の名目としては偶数月に振り込まれる国民厚生年金及び毎月振り込まれる高額介護サービス費しかなかったというもの。

同年1月以降については入金日から1週間以内にはその都度1000円以上の単位で入金額に匹敵する額が引き出されてはいるものの、その引出しによって本件預金口座の残高が常に2000円(本件滞納市税の額)を下回っていたわけでは必ずしもない、と認定しています。

これらの事情から、前橋市の担当者において、本件差押処分の直前に、本件年金が平成28年4月15日に振り込まれるとしても、振り込まれる前の本件預金口座の残高が2000円を下回っていることを認識していたとまではいえないとしました。


そうすると、前橋市長において本件預金債権の大部分が本件年金を原資とするものであると認識していたということはできず、本件年金自体を差し押さえることを意図して本件滞納処分を行ったとまでは認められないと結論づけました。

困窮に陥るおそれも、金額から否定し、差押処分が権限を濫用したものとして違法であるということはできないとしました。

 

差押の禁止

税金の差押の際にも、差押が禁止されている部分があります。

その範囲等は、一般債権による差押の禁止部分とは異なります。

もっとも、本件年金は差押禁止部分であり、これが入金された預金の差押が許されるかが問題になりました。

差押日を見ると、年金支給日です。偶然とは考えにくく、年金を狙った差押ではないかという印象を受けます。

 

同様に給料の全額支給後に口座を差し押さえたり、児童手当が入金後に差し押さえたりする事例が問題になります。

この口座入金後の差押禁止については、税金だけでなく、一般債権の差押でも争われるケースがあります。

 

振り込まれた預金口座の差押


この問題で引用れる平成10年最判では、差押禁止債権である年金等も預金口座に振り込まれると、預金債権に転化し、一般財産になるとしています。預金債権は差押禁止債権としての属性を承継しないという判断です。

ただ、通常の一般債権による差押では、差押禁止債権の範囲の変更制度があります。

事情がある場合には、差押禁止の範囲を拡大する、自由に手元に残せる財産を増やすよう変更を求めることもできるわけです。しかし、税金の差押を規定する国税徴収法には、このような定めはありません。

換価の猶予や滞納処分の停止があることはありますが、行政の裁量が広いです。さらに、税金の差押では、財産調査も認められています。

税金の差押は強いのです。

 

税金の差押について、違法性を争う場合には、本件のように裁判まで進めることはできます。

ただ、違法と認定されるには、ハードルが高いのも事実です。

他に、借金などがあって税金が払えなかったという事情の場合には、税金の滞納解消を優先し、他の借金を債務整理で解決する方がトータルの費用、労力は少なくて済むことが多いでしょう。

 

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