FAQ
FAQ(よくある質問)
Q.犯罪報道で肖像権は侵害される?
報道等で肖像権の侵害を受けたと主張することは多いのですが、報道目的で不法行為にはならないことも多いです。
訴訟提起前に裁判例等をチェックしておくべきでしょう。
東京地方裁判所令和元年10月31日判決を紹介します。
事案の概要
原告は、アダルトビデオ制作会社である有限会社の代表取締役。
警視庁は、平成30年1月17日、淫行勧誘罪(刑法182条)の疑いで原告を逮捕。
被疑者Aは、アダルトビデオ女優の派遣管理等を業とするプロダクションの元従業員、被疑者B(原告)は、無修正のアダルトビデオの企画、制作、編集等を業とする法人の実質経営者であるが、A・Bは、共謀の上、性交状況を撮影したアダルトビデオへの出演等の経験がない女性をアダルトビデオに出演させようと企て、営利の目的で、被疑者Aが、平成27年6月3日ころ、東京都渋谷区内の飲食店において、アダルトビデオ出演に拒絶の意思を示した同女に対し、同女が出演予定の作品は無修正で配信されるアダルトビデオであるのに、その事実を秘したまま、「あなたのプロフィル写真を撮影するのにいくらお金がかかってると思ってるの。」などと申し向け、さらに、被疑者Bが、平成27年6月11日ころ、東京都中野区内の撮影スタジオにおいて、無修正配信される事実を秘した上、言葉巧みに、偽計を用いるとともに同女を困惑させ、アダルトビデオの制作として、男優ら相手に性交させ、もって淫行の常習のない女性を勧誘して姦淫させたという容疑でした。
被告Y3は、逮捕された原告が警視庁原宿警察署に連行された際に、同署の敷地内にいた原告の容姿・容貌を撮影。
平成30年1月19日、「アダルトビデオへの出演強要が社会問題となるなか、警視庁が製作会社の社長らを異例の逮捕に踏み切りました。」との内容の放送を配信。
その際、原告が原宿署に連行された際に撮影された映像が使用されており、このうち、原告の肖像が映示されたのは、1分37秒の放送時間中、開始後約3秒後から約6秒間、同じく約28秒後から約1秒間、同じく1分28秒後から約4秒間の3回、合計で約11秒でした。
そのほか、被告Y1新聞による報道、被告Y2新聞による報道もされました。
刑事手続に関し、原告に対する検察官の勾留請求は却下され、検察官の準抗告も棄却。東京地方検察庁検察官は、平成30年3月16日、原告を不起訴処分としました。
原告は、各報道が、AV出演強要の疑いで逮捕したかのようにされているとして、名誉毀損、上記撮影・報道については肖像権侵害の主張をし、3社に対して、損害賠償請求をしました。
今回は、名誉毀損については省略し(請求棄却)、肖像権に絞って取り上げます。
肖像権の侵害
争点の一つに、本件撮影及び本件報道が原告の肖像権を侵害したかという点があります。
人は、みだりに自己の容貌等を撮影されないことについて法律上保護されるべき人格的利益を有しています。
もっとも、人の容貌等を撮影することが正当な取材行為等として許される場合もあり、ある者の容貌等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、態様、必要性等を総合考慮して、被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきであるとされました。
また、人は、自己の容貌等を撮影された映像をみだりに公表されない人格的利益も有すると解するのが相当であり、映像を公表する行為が被撮影者の上記人格的利益を侵害する違法なものであるか否かは、同様に、被撮影者の社会的地位、当該映像の内容、放送の目的、放送に至る経緯、放送の必要性、撮影方法等を総合考慮し、社会生活上受忍の限度を超えたものといえるかどうかを判断して決すべきであるとしています。
犯罪報道と肖像権
裁判所は、原告は、本件撮影当時、淫行勧誘に関する刑事事件の被疑者として逮捕された者であり、本件撮影は、逮捕直後の原告の動静等を報道する目的で撮影されたものといえるとしました。
また、撮影した被告Y3の社会部記者は、原宿署の入り口の柵の外から、他社と同様の態様で撮影を行ったことが認められ、その撮影について制止されたなどといった事情も見受けられないから、その撮影の態様が相当でなかったとはいえないと指摘。
本件撮影が行われた場所は、必ずしも一般に公開された場所とはいえず、原告も任意に報道機関の前に姿を現したものではないが、拘束された被疑者について、逮捕直後の動静等を撮影するために適当な場所は、警察署等限られた場所だけであることを考えると、本件撮影の現場において原告の様子を撮影することの必要性も認められるというのが相当であるとしました。
また、本件当時、本人が望まないアダルトビデオへの出演「強要」問題は、社会問題の一つとして関心が高い事項であったから、そうした事実に関連する刑事事件の被疑者として逮捕された者の動静等は、社会的にも関心が高いものであったということができるともしています。
また、本件報道は、同様の目的に基づき放送に至ったものであって、その必要性等も同様に考えることができるとしました。
そして、本件報道の計1分37秒の放送時間のうち、原告の肖像が映示されたのは、合計で約11秒半程度であり、平成30年1月19日の放送後、同月26日24時頃までコンテンツとして保持され、自動的に消去されたことが認められ、放送の内容として過度に原告の肖像を映示したものでなく、約1週間という限られた期間のみ公開されていたにすぎないから、放送内容及び態様についても相当なものであったということができるとしました。
以上の事情を総合考慮すると、本件撮影及び本件報道は、いずれも社会生活上受忍すべき限度を超えて、原告の人格的利益を侵害するものとはいえず、不法行為法上違法であるとはいえないとして、請求を棄却しました。
犯罪報道などで肖像権について主張したい人は、このような裁判例をまずはチェックしましょう。
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