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FAQ(よくある質問)

 

Q.生命保険の受取人変更手続きの例外は?

生命保険の受取人変更は、保険会社に連絡するのが通常です。

ただ、契約時期によって、違う方法で変更されることがあります。

平成22年4月以前の契約の場合、裁判例で変更手続きが別に認められているためです。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.8.7

これが争われた和歌山地方裁判所田辺支部平成31年4月24日判決を紹介します。


動画での解説はこちら。

事案の概要

ある男性が生命保険に加入していたところ、亡くなりました。

その生命保険金の受取人を巡っての紛争でした。

原告は男性の兄弟。当初、保険会社を被告として訴えたところ、男性の妻が独立当事者参加し、参加人として争いました。

実質的には、原告と参加人の紛争。兄弟と妻の紛争という構図です。


参加人は、男性と平成12年11月15日に婚姻。両者の間には、未成年の長男及び長女がいました。

男性は、平成17年5月1日、保険契約を締結。

被保険者を自身、死亡保険金・収入保障年金受取人を参加人とする内容でした。

男性は、平成27年11月27日、本件保険契約の募集人及び原告同席の下で、本件保険契約の保険金受取人を参加人から原告に変更することを内容とする名義変更請求書に署名、募集人に交付。

募集人は、同年12月1日、男性から国民健康保険被保険者証の写し等の必要書類を受け取り、名義変更請求書と併せて保険会社宛に郵送。
男性は、同月5日に死亡。

名義変更請求書には、保険会社従業員による同月7日付けの押印がされていました。名義変更請求書等の保険会社への到達が男性の死亡の前後いずれであったかは証拠上判然としないという状態です。

受取人変更の効果が生じているのか、旧受取人:妻と新受取人:兄弟の争いとなりました。

 

受取人変更に関する約款と法律

本件保険契約の約款には、以下の定めがありました。

34条1項:保険契約者またはその承継人は、被保険者の同意を得て、死亡保険金受取人を変更することができます。
同条4項:本条の変更について会社に対抗するためには、保険証券に表示があることを要します。

また、商法(平成20年法律第57号)附則2条は、同法の施行日(平成22年4月1日)前に締結された保険契約については、保険法(平成20年法律第56号)附則3条から6条までの規定により同法の規定が適用される場合を除き、なお従前の例によると定めており、本件保険契約に関しても、原則として平成20年法律第57号による改正前の商法が適用されるものとされます。

また、今回の書類作成に関わった募集人について、代理店業務を委託する契約が締結されていたものの、保険会社は生命保険契約締結の代理権を付与した事実はありませんでした。


保険会社は、死亡保険金を債権者不確知を供託原因として、供託。本件供託金の取戻請求権も放棄しました。


ここで問題にされているように、生命保険の受取人変更について考える場合には基準時があります。

保険法が施行された平成22年4月1日です。

これ以降の契約は、保険法が適用されます。

これ以前の契約は、保険法施行前のものということで、違うルールが適用されます。

保険法施行前の受取人変更

ここでいう違うルールというのが、保険契約者の一方的な意思表示で良いというものです。

新旧受取人のいずれに対してでも一方的な意思表示をすることで、受取人が変更されるというルールです。

これは最高裁判決で認められたルールです。

保険法では、遺言による保険金受取人の変更の場合を除き、43条2項で保険金受取人の変更は、保険者に対する意思表示によることとされています。これに対し、保険法施行前における判例では違ったのです。保険者に対する意思表示だけではなく、新旧保険金受取人に対する意思表示によることも認められているのです。ただし、保険会社の二重弁済の危険を避けるため、保険者に保険金受取人の変更を対抗するためには、保険者に対する通知が必要とされていました。


本件保険契約において、保険契約者がする保険金受取人変更の意思表示は、保険契約者の一方的意思表示によってその効力を生じ、意思表示の相手方は必ずしも保険者であることを要せず、新旧保険金受取人のいずれに対してしてもよく、この場合には、保険者への通知を必要とせず、同意思表示によって直ちに保険金受取人変更の効力が生ずるものと解される(最判昭和62年10月29日民集41巻7号1527頁)とされています。


意思表示の相手は保険会社でなくてもよく、保険会社に連絡せず、受取人変更の効果が生じてしまうのです。


保険会社に伝わらずに受取人が変更されるというのは、意外な話に感じるかもしれませんが、最高裁の認めたルールとしてはそうなっています。

つまり、新受取人の立場からすると、自分に変更する意思表示があったということを主張・立証することで、保険金を受け取れることになります。

当然、保険証券に名前がある旧受取人は、これを争うという構図になります。

この意思表示の認定では、背景事実も細かく認定されるのが通常です。

変更の認定をするのであれば、契約者がなぜ変更しようとしたのか動機を探るような認定になるのが通常です。

本件で認定された背景事実は次のようなものでした。

関係者の人的関係

男性は、平成11年頃より飲食店経営を始め、平成14年には有限会社を設立して(その代表取締役には男性が、取締役には参加人が就任し、他に役員はいませんでした。)、飲食店などの経営に携わっていました。

しかし、男性のアルコール依存の影響等から、平成16年頃からは、参加人が中心となって飲食店経営を行うようになり、本件保険契約の保険料の支払も参加人が行っていました。

参加人と男性は、平成25年頃から別居。

男性は、平成26年9月頃、和歌山県田辺市に自宅を新築したものの、別居が解消されることはなし。

参加人と男性は、別居後、平成26年初め頃までは経営する飲食店で頻繁に会っていましたが、同年9月頃からはその頻度は月2回程度となり、平成27年5月頃以降は、同年の夏頃に三、四回ほど会った程度で、飲食店で会うこともなくなっていました。

原告と男性との関係は、参加人と男性の別居前はそれほど密なものではなかったが、同別居後は、家族が、男性方を頻繁に訪問して、男性の世話をするようになり、原告も、男性の世話をしていた。そして、同年5月頃以降は、男性は、週に数回程度訪問するようになりました。

男性の症状

男性は、平成23年頃以降、度々、アルコール依存の離脱症状による振戦せん妄状態に陥り、入通院を繰り返していました。

同状態は、激しい幻覚、錯覚及び失見当識などを伴うものであったが、その症状は数週間程度で落ち着き、会話ができる状態に戻っていました。

男性は、振戦せん妄状態に陥り、平成27年4月23日から同年5月18日までの間、入院。

退院後、同年12月3日までの間、亡竹夫には数回の通院歴があるものの、入院歴はありませんでした。

男性は、同月4日に医療センターに搬送。同日付け診療記録には、男性が同月2日に飲酒し、同月3日の夜から異常行動が見られたと記載。

名義変更請求書の記入に至る経緯

募集人は、平成13年頃、男性に対して保険契約の勧誘を行い、男性は保険契約を締結。

その後、保険契約の見直しがされ、男性は、平成17年5月1日、本件保険契約を締結。

本件保険契約の保険証券は参加人が保管。

募集人は、年に数回程度、参加人から、保険に関する連絡や、入院給付金請求に関する問合せを受けるなどし、その際、男性が、飲酒が原因で入通院していることなどを聞いていました。


男性は、平成27年11月下旬頃、募集人に対し、保険金受取人を変更したいから自宅に来てほしいと連絡。

募集人は、同月27日の夕方頃、男性方を訪問。

男性方には、男性のほか、原告と家族もおり、しばらく雑談をした後、募集人は、男性に名義変更請求書を交付し、男性は、受取人変更の意向を示してこれに署名。

原告は、上記の際、DNAんせいと同じテーブルに座っており、署名も確認。

募集人は、男性に対して、保険証券があるか質問したが、ないと答えたので、本人確認書類の追完を求めました。

男性は、当時、飲酒をしていたが、募集人が、男性の言動に異変や違和感を覚えることはありませんでした。

受取人変更の意思表示を認定

上記事情から、裁判所は、本件において受取人変更の意思表示があったと認定しました。


男性は、募集人に対して、保険金受取人を変更したい旨を連絡し、原告や募集人の面前で、受取人変更を行う意向を示して名義変更請求書に署名している点を指摘。

そうすると、同時点で、男性が、保険金受取人を参加人から原告に変更する確定的な意思を有していたことは明らかであり、名義変更請求書の宛先が形式的には保険会社とされていたとしても、上記変更の意思表示は、その場にいた原告に対してもされたと評価できるとしました。

よって、男性は、上記時点で、新たな保険金受取人である原告に対して、保険金受取人を参加人から原告に変更する意思表示を行ったと認められるとしました。

錯誤無効の主張を排斥

参加人は、男性が、アルコール依存症の重篤化による幻想・妄想の影響や、原告らによる言動により、本件誤信に陥ったと主張しました。

しかし、裁判所はこれを裏付ける的確な証拠はないと排斥しました。また、本件受取人変更の意思表示の際に、本件誤信に係る男性の動機が原告らに表示されて同意思表示の内容とされたことを裏付ける直接証拠は提出されておらず、他に的確な証拠もないとしています。


かえって、本件受取人変更の意思表示の時点では、男性と参加人の別居期間は約2年に及んでおり、両者の交流は少なくなっていたこと、他方で、男性と原告らの交流は密であったことが認められ、募集人や原告が供述するように、男性が、参加人との離婚を念頭に置いて、保険金受取人を参加人から原告に変更することを決意したとしても不自然ではないとしました。

なお、参加人は、男性の死亡により、会社の全株式を取得し、参加人名義の口座には合計約6000万円もの死亡保険金が振り込まれるなど、十分な経済的利益を得たと認められる点にも言及しました。


男性は、アルコール依存の離脱症状の発現時においては、激しい振戦せん妄状態に陥ることがあったものの、その症状は数週間後には落ち着き、会話も可能となっていたとも認定。

平成27年12月4日付け診療記録には、前日から異常行動が始まった旨の記載はあるものの、本件受取人変更の意思表示の時点(同年11月27日)で同様の離脱症状が発現していたことを伺わせる記載はないとしています。


以上によれば、男性のアルコール依存の離脱症状や原告らの言動等が、本件受取人変更の意思表示に不当な影響を及ぼした事実自体が認められないとしました。

第三者の同席がポイント

新受取人に対する一方的意思表示で良いとすると、「自分は言われた」とだけ主張して、保険金が受け取れると勘違いされる人がいるかもしれません。

しかし、主張・立証のポイントとして、その背景事情も考慮されるほか、意思表示自体の立証としては、第三者の証言も重要になります。

今回は、募集人へのやりとりに、新受取人が同席していたという点で、立証に成功しています。

意思表示自体の立証としては、このような変更手続きをとろうとしていたかどうかもポイントになります。

これらを点をクリアできたので、本件では、変更の意思表示があったと認定されたのではないかと思います。

もちろん、保険会社での変更手続きをしっかりできれば問題になることは少ないのですが、それが間に合わないということもあります。

そうであれば、 変更手続きをしっかり証拠化しておくのが、新受取人からすると望ましい対応といえるでしょう。


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