FAQ
FAQ(よくある質問)
Q.発信者情報開示請求で認められる投稿は?
ネット上の名誉毀損等で相手方を確認するために使われる発信者情報開示請求訴訟。
その際には、投稿を特定して開示請求をします。
その投稿によって権利侵害があったかがポイントになります。
請求が認められるかどうか、複数の判決を確認することで、ある程度つかめてくると思います。
今回は、東京地方裁判平成28年9月2日判決の紹介。
発信者情報開示請求訴訟で、複数の投稿に関する情報開示を求め、一部の投稿について、特定のIPアドレスを使用して、投稿日欄記載の各日時頃に「投稿用URL」欄記載の各URLに接続した者に関する氏名又は名称、住所及びメールアドレスの各情報の開示が認められたケースです。
逆にいうと、一部の投稿については認められなかったということになります。
そこで、発信者情報開示請求が通るかどうかを探る一つのヒントになるといえます。
事案の概要
被告は、インターネット接続サービスを提供する会社。
被告のサービスを経由して、インターネット上の掲示板サイトに複数の投稿がされました。
原告は、これによりプライバシー、名誉感情又は著作権を侵害されたため、本件各投稿記事に係る発信者に対する損害賠償請求権等の行使のために必要であると主張して、経由プロバイダである被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)4条1項に基づき、本件各投稿記事に係る発信者情報である氏名又は名称、住所及びメールアドレスの各情報の開示を求めたものです。
原告は、ツイッターアカウントを使用してツイートを投稿、脚本家、ライターとして活動していた人です。
投稿の内容
本件掲示板では、コメントを投稿できる期間がトピック投稿後30日間に限定されていました。
ここで連続する複数のトピックが開設されました。新しいトピックには、過去のトピックのリンクが貼られていました。
前トピ、過去トピなどのリンクを貼ることで連続性があるような開設とされていました。
問題になった投稿記事は、本件トピック1、2又は5に投稿されたものでした。
投稿記事1は、ツイッターアカウントから、原告の氏名を特定する投稿。
投稿記事2,3がフェイスブック投稿の転載。
投稿記事4,5は「サイコ」との投稿。
原告の氏名を特定する投稿
ツイッターアカウント名だったことから同定可能性が争点となりました。
原告は、本件各トピックは、原告について話題にするものとして順次開設されたものであり、トピック中においても本件各トピック間の関連性が示されていると主張。
そして、本件トピック1においてAなる人物が誰であるかを探索する内容の投稿がされるようになり、その後、同人物を特定するための投稿が重ねられ、その結果、「A」やこれを略した「◇◇」、「△△」、「○」等と表記されている者が原告を指していることは、本件各トピックの閲覧者にとっては容易に同定可能であったと主張しました。
裁判所は、遅くとも本件投稿記事1が投稿された時点において本件トピック1上ではAなる人物を「△△」と表記していたところ、本件トピック1に投稿された本件投稿記事1中の「△△は、自称ライターで、X1と名乗っていた。」との記載があることから、これを閲覧する者の通常の注意と読み方を基準としてみたとき、Aなる人物が「X1」という氏名であることを認識することができるとしています。
ところで、ハンドルネームを使用してインターネット上に投稿するなどしている者は、その実名を明らかにしたくないという意思を有しているのが通常と指摘。
そして、「X1」という氏名の人物、すなわち原告が「A」というツイッターアカウントを使用しているという事実は、公表されていない原告の私生活上の事実であるところ、上記のとおり、一般人の感受性を基準とすると他者に公開されることを欲しない事柄であるというのが相当であるから、Aなる人物と現実世界における原告とを結びつける上記情報は、プライバシーに該当するということができるとしました。
この点、被告は、原告が自己の氏名で著作物を出版している人物であるからプライバシーの要保護性は低まるなどと主張していましたが、原告が自己の氏名を明示して著作物を出版していることと、インターネット(ツイッター)上で「A」とのアカウントを使用していることとは、全く別の事柄であるから、被告主張の事情をもって、インターネット上で使用するアカウント名と現実世界における原告とを結びつける情報を公開されないという原告のプライバシーについて、その要保護性を低めるものであるということはできないとしました。
プライバシー侵害として開示を認めました。
著作権侵害?
原告は、本件投稿記事2中の文章及び本件投稿記事3に添付されている画像について、原告が自らのフェイスブックに対象を限定して公開した記事であるところ、その無断転載について原告の著作権の侵害に当たる旨を主張していました。
原告が主張するのは言語の著作物であると考えられるところ、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいい(著作権法2条1項1号)、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でなく、又は表現上の創作性がないものであれば、著作物性を有するということはできないとされています。
本件で投稿記事2及び3中に転載された原告の文章は、淡路島においてなにがしか不快な事態に巻き込まれたことについて、当該事態に巻き込まれてしまったという事実そのものを摘示し、あるいはこれに関する心情、感想等をそのまま吐露しているものであるとも評価し得るものであって、そこに何らかの創作性が存するとは必ずしも断じることができず、これが著作物に該当する、ひいては同文章を無断で転載されることにより原告の著作権が侵害されるかという問題については、少なくともその権利が侵害されたことが明らかであるとまで認めることはできないとして、著作権侵害を認めませんでした。
原告は、この点について、ごく限られた特定のメンバーにのみ公開した記事であるから、プライバシーの侵害に当たるとも主張しましたが、この主張も否定されました。
その内容自体には一般人の感受性を基準としてみたときに不特定多数の者に公開されることを欲しないような私生活上の事柄は必ずしも記載されておらず、そこに記された情報が原告のプライバシーに該当する、ひいては同文章を不特定多数の者が閲覧できる状況下に転載されることにより原告のプライバシーが侵害されるかという問題については、少なくともその権利ないし人格的利益が侵害されたことが明らかであるとまで認めることはできないと結論づけました。
名誉感情の侵害
原告は、他に投稿記事4ないし6について、原告の名誉感情が侵害された旨主張していました。
人が自己自身の人格的価値について有する主観的な評価である名誉感情は民法723条にいう名誉には含まれず、名誉感情の侵害はこれが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であると認められる場合に初めて人格的利益の侵害が認められ得るものだとされています。
投稿記事4では「△△」について「類稀なサイコであろうという推定がある」と、本件投稿記事5では「△△が恐るべきサイコ」と記載されていました。
「サイコ」との言葉は、一般的には「精神の」などの意味があり、その使用される文脈によっては中性的に理解されることもあるものの、他方で、人をあなどったりはずかしめたりする際に人格異常者等の意味で用いられることもしばしばある言葉であるところ、一般的な閲覧者が本件投稿記事4及び5を読んだとき、その文脈からすれば、後者の意味で用いられていると理解するのが自然であり、そうすると、本件投稿記事4及び5中の上記各記載は、「サイコ」という強い侮辱的表現を用いて原告が極めて異常な者であると指摘するものであり、このような侮辱行為は、社会生活上許される限度を超えて原告の人格的利益(名誉感情)を侵害するものであるというべきで、不法行為に該当するものと解するのが相当であるとしました。
被告は、反対言論をもって対抗すれば足りる旨主張するけれども、本件投稿記事4及び5に関して原告が主張する権利侵害は名誉感情の侵害であって名誉毀損ではなく、したがって、社会的評価の低下やその回復を云々するものではないから、被告の主張は採用できないと排斥しました。
他方で、投稿記事6の内容は、これを投稿した氏名不詳者がその依って立つ考えに基づいて原告に対する意見を述べるなどしたものであり、その表現方法も許容し得ない侮蔑等が含まれているとも言いがたく、原告において不快な感情をもよおすものであるとは言い得るかもしれないが、これが社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるとは必ずしも断じることができず、少なくとも原告の権利ないし人格的利益が侵害されたことが明らかであるとまで認めることはできないとして、原告の請求を否定しました。
発信者情報開示の対象とされた投稿のまとめ
今回の判決では、ツイッターアカウントから本人の氏名を特定できるような投稿は、プライバシーの侵害。
文脈によって「サイコ」との表現は名誉感情を害するとの認定がされています。
一方で、フェイスブックの投稿転載について、その内容から著作物とはいえない、プライバシー侵害もないとして開示請求が否定されています。
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