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FAQ(よくある質問)

 

Q.労働者のひげ規制は許される?

労働問題のなかで、髪型、服装等のほかに、ひげを規制するルールが問題になることもあります。

ひげにこだわり、人事考課で悪い評価を受けたと主張し、争った事件があります。

大阪高裁令和元年9月6日判決です。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.8.7

事案の概要

原告らは、市が設置していた市交通局の職員で、地下鉄運転業務に従事していました。

2人とも、口元と顎の下にひげを生やしていました。

平成24年に交通局運輸部が「職員の身だしなみ基準」を制定。

そこには、「髭は伸ばさず綺麗に剃ること。(整えられた髭も不可)」との記載がありました。

運輸部長名義の文書では、この身だしなみ基準を満たすよう各職員に指示すること、度重なる指導をしても改善しなければ管理課に報告および人事考課への反映を行うよう求める記載までありました。

 

この交通局では絶対評価による5点満点の評価点を基に、5段階の相対評価区分を決定する人事考課制度とされていました。

この区分により、翌年度の勤勉手当の金額が変わる制度でした。

 

原告らの上司らは、原告らに対しひげを剃るよう指導。しかし、原告らはこれに応じず。


平成25年度および翌年度の人事考課で「市民・お客さま志向」および「規律性」の項目等で低い評価をされました。

相対評価では最下位や下から2番目の区分とされました。

 

原告らは、身だしなみ基準の制定、これに基づく上司らによる業務上の指導等、ひげを剃らなかったことを理由とする人事考課における低評価は、人格権としてのひげを生やす自由を侵害するもので違法と主張、国賠法1条1項に基づき慰謝料等を、賞与請求権に基づき各考課で第3区分とされた場合の勤勉手当との差額を請求して、訴訟提起。

 

地方裁判所の判断

大阪地裁平成31年1月16日判決は、賞与請求権による差額の請求は否定、ただし、慰謝料20万円等の請求を認容しました。

裁判所は「原告らがひげを生やしていたことを考慮したことが違法であったとしても、・・・絶対評価で3点が付されることになるとまでは認められず、また、それに基づき相対評価で第3区分とされていたと認めることもできない」として、差額の請求を否定しました。

運輸長の言動について、人事上の処分や退職を余儀なくされることまでを示唆して、ひげを剃るよう求めたことが認められ・・・身だしなみについて任意の協力を求める本件身だしなみ基準の趣旨を逸脱したとして、違法と認定しました。

 

被告がこれに対して控訴。

原告らは附帯控訴し、賞与請求権に関する予備的請求として、国賠法1条1項に基づき勤勉手当差額相当額の損害賠償請求を追加。

 

高等裁判所の判断

控訴も附帯控訴も棄却。

 

まず、差額請求について、交通局の人事考課制度における相対評価は、同一の職種・職位レベルで、同一の第2次評価者が評価した範囲を基本として確定された実施範囲内で、第2次評価における絶対評価点が高い者から順に、第1区分から第5区分に振り分けられるものであり、各区分の割合は予め定められているとしました。絶対評価で3点が付与されたとしても、それにより直ちに、相対評価で第3区分にされていたとは認めることはできないとしました。

差額請求の根拠である第3区分とされていたはずだという前提が認められなかったものです。

次に、予備的請求とされた国賠法に基づく損害賠償請求権についても、ひげを生やしていることが考慮されなかったとしても、相対評価で第3区分にされていたとまで認めることができないとして、否定されています。

同じ理由です。

 

身だしなみ基準制定の違法性

当裁判所も、本件身だしなみ基準は、職務上の命令として一切のひげを禁止し、又は、単にひげを生やしていることをもって人事上の不利益処分の対象としているものとまでは認められず、交通局の乗客サービスの理念を示し、職員の任意の協力を求める趣旨のものであること、一定の必要性及び合理性があることからすれば、本件身だしなみ基準の制定それ自体が違法であるとまではいえないものと判断するとしました。

少なくとも現時点において、ひげを生やす自由が、個人の人格的生存に不可欠なものとして、憲法上の権利として保障されていると認めるに足りる事情は見当たらないとしています。

裁判所は、ひげに関し制約の必要性は認められないということはできないとしました。

「整えられた髭も不可」として、ひげが剃られた状態を理想的な身だしなみとする服務上の基準を設けることには、一応の必要性・合理性が認められるとしています。

ひげに対する許容度は、交通局の事業遂行上の必要性とは無関係ではなく、一方、本件身だしなみ基準は、ひげを一律全面的に禁止するものと解することはできないとしました。

被告が提出した証拠には、ひげに対する嫌悪感を示す内容が多数含まれていることは事実だと指摘しています。

ただし、労働者のひげに関する服務規律は、事業遂行上の必要性が認められ、かつ、その具体的な制限の内容が、労働者の利益や自由を過度に侵害しない合理的な内容の限度で拘束力があるとしています。


単にひげを生やしていることをもって人事評価における減点要素とすれば、そのような人事考課は、本件身だしなみ基準の趣旨目的(交通局の乗客サービスの理念を示し、職員の任意の協力を求める)を逸脱したものであるとしました。


本件身だしなみ基準は、単にひげを生やしていることをもって人事上の不利益処分の対象としているものではなく、違法な人事考課があることによって、本件身だしなみ基準が違法であることが導かれるわけではないとしています。

 

 

上司らの業務上の指導等の違法性

運輸長の原告に対する平成24年12月21日の面談の際の発言は国賠法上違法と認定する一方、その他の上司の発言には国賠法上の違法性があるとは認められないとしました。

被告は、運輸長の発言は交通局の見解ではなく、運輸長の誤解に基づくもので、原告はこれを受けてひげを剃ったこともないから、一担当者の一度きりの発言をもって国賠法上違法であると解することはできないと主張。


しかし、運輸長は、当時、4つの乗務所を統合する乗務運輸長の地位にあった者でした。

このような上位の職位にある者が職員に対し、人事上の処分や退職を余儀なくされることまでを示唆してひげを剃るよう求めた発言を、交通局の見解とは異なる本人の誤解に基づくものであるなどといった理由で、違法性がないと評価することはできないとして、被告の反論を認めませんでした。

実際に原告がひげを剃らなかったとしても、このような発言により、精神的圧迫や不安を感じたであろうことは優に認められるとしています。

 

他の上司の発言については、ひげを剃るよう指導、説得を繰り返していることや、その中で、人事考課の際に不利益な事情として考慮されることになることを告げたことは認められるものの、それを超えて、ひげを剃ることを命じ、強制していたとまで認めることはできないとしています。

 

 

 

損害の有無及びその額

損害については、地方裁判所の判断を維持。

本件各考課及び運輸長の発言により、原告らが心理的圧迫や精神的苦痛を受けたこと、原告らが受けた精神的苦痛に対する慰謝料としてはそれぞれ20万円、弁護士費用としてはそれぞれ2万円が相当であるとしました。

原告1名は、被告から心理的圧力を受け続けた結果、身体症状が悪化し、原判決言渡し後の平成31年4月10日から約1か月間の休職を余儀なくされたとも主張していました。

しかし、診断書には、過敏性腸症候群により約1か月の休養を要すると考えるとの記載はあるものの、疾病の原因等は何ら記載されていないと指摘。原告の疾病の発生又は悪化がストレスによるものであるとしても、これは、本件各考課等に起因するものというより、原判決言渡し後の周囲の反応等が寄与しているものかと考えられるところであるとしました。慰謝料の金額は増額されませんでした。

 

 

ひげ以外の規制

過去にも、労働者のひげや服装等に対して規制がされ、裁判で争いになることがありました。

ひげのほか、トラック運転手が髪を茶色に染めたことが問題になった事例もあります。

福岡地小倉支決平9.12.25では、「労働者の髪の色・型、容姿、服装などといった人の人格や自由に関する事柄について、企業が企業秩序の維持を名目に労働者の自由を制限しようとする場合、その制限行為は無制限に許されるものではなく、企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるものというべく、具体的な制限行為の内容は、制限の必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くことのないよう特段の配慮が要請されるものと解するのが相当」としています。

今回のような規制は、労働者の個人的自由の規制のため、業務遂行あるいは会社の事業遂行上の必要性と調整され、一定の限度内でのみ認められるものです。

 

 

 

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