FAQ
FAQ(よくある質問)
Q.ネット掲示板の風俗嬢投稿で発信者情報開示がされるケースとは?
風俗嬢に対するネット掲示板での誹謗中傷事件は多いです。
よく見かける投稿でも発信者情報開示請求がされるケースが目立ちます。
今回問題になったのは、「’今月70本の自腹買取りだよ
それで力もない人を2位にするのはどうなの?
実質 ぶっちゃけ5位くらいだろ 笑」などという投稿。
これが事実摘示なのか、社会的評価を下げるのか争われた事例です。
東京地方裁判所令和元年12月26日判決です。
事案の概要
発信者情報開示請求事件です。
原告が、経由プロバイダである被告に対し、インターネット上の掲示板での投稿に係る情報の流通によって人格権(名誉権)を侵害されたと主張。
本件記事の発信者に対する損害賠償請求等のために必要であるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき、権利の侵害に係る発信者情報の開示を求めた事案です。
原告は、令和元年5月26日当時、東京都新宿区に所在するいわゆる性風俗店において、「X1’」との氏名(源氏名)を用いて「コンパニオン」として稼働していた女性。なお、原告は、同年8月17日をもって、同店を退店。
インターネット上の掲示板サービスで、店舗名が記載された標題(スレッドタイトル)で作成されたスレッド中に、投稿がされました。
問題となった投稿は、次のもの。
「X1’今月70本の自腹買取りだよ
それで力もない人を2位にするのはどうなの?
実質 ぶっちゃけ5位くらいだろ 笑」
同定可能性
源氏名である風俗嬢に関する投稿では、同定可能性が問題となります。
源氏名と原告本人を結びつけることが必要です。
被告は、本件記事には、「X1’」との源氏名が記載されているにすぎないところ、「X1’」が原告のことであることを知る者は、極めて少数の者に限定されるというべきであるから、本件記事につき原告を対象とするものとの同定をすることができるものであるということはできないと主張しています。
裁判所は、本件記事は、本件掲示板に「店舗名124」との標題(スレッドタイトル)で作成された本件スレッド中に投稿されたものであること、本件スレッドは、その標題に照らせば、本件店舗に関する話題を投稿するためのものであると解されるところ、本件記事が投稿された当時、原告は、本件店舗において「X1’」との源氏名を用いて稼働していたこと、本件店舗のウエブページ上の原告(X1’)のプロフィールを紹介する部分には、原告の顔写真も掲載されていたことに照らせば、本件記事については、原告に関するものであるとの同定可能性が十分に認められるとしました。
社会的評価の低下
原告の社会的評価について、被告は、原告は、既に本件店舗を退店しており、現時点でその社会的評価が低下する余地はないから、法的保護の必要があるとはいえないと主張。
また、原告が指名順位の買い取りを行ったとの事実が摘示されているとしても、指名順位が上位であるか否かは原告の社会的評価に影響を及ぼすものとはいえないと主張。本件店舗の在籍キャストは71名おり、指名順位が「5位」でも「2位」でも相当な上位であることに変わりはないとの論理を展開。
これに対し、原告は、本件投稿は、原告が今月70本の指名を自腹で買い取った事実を摘示し、原告が不正な方法により指名順位2位を獲得したコンパニオンであるという印象を閲覧者に与え、原告の社会的評価を低下させていると主張していました。
裁判所は、本件記事の内容に照らすと、本件記事は、一般の閲覧者の通常の注意と読み方を前提とすれば、原告が今月(令和元年5月)70本の指名を自腹で買い取り(自分で客からの指名料相当額を負担して指名件数を70件分水増しし)、本件店舗における指名件数で2位との順位を獲得したとの事実を摘示したものというべきであると認定。
そして、本件記事が投稿された当時、原告が性風俗店のコンパニオンという客の評判が重要と考えられる職業に就いていたことに照らせば、上記のような本件記事は、原告の社会的評価を低下させるものと認めるのが相当として、原告の主張を認めました。
公共性もない
被告は、風俗店に関する掲示板は、風俗店を利用し、又は利用しようとする者にとって関心事であって、一定の公共性は認められ、そこに投稿することには公益目的も否定できないと主張。そして、本件記事は、人身攻撃にまでは至っておらず、意見ないし疑問としての域を逸脱するものではないと主張しました。
この点に関して、裁判所は、性風俗店に所属する1人の「コンパニオン」にすぎない原告の行動をもって、公共の利害に関する事実ということはできないものというべきであり、本件記事の投稿につき違法性阻却事由があるとはいえないとしました。また、本件においては、摘示事実が真実であることを否定する趣旨の原告の陳述書が提出されている一方、上記摘示事実が真実であることをうかがわせるような事情を認めるに足りる証拠は全くなく、本件の証拠上も、本件記事の投稿につき違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は認められないものというべきとして、被告の主張を排斥しました。
発信者情報の開示を受けるべき正当な理由
被告は、原告主張の損害賠償請求をするためには、契約者の氏名又は名称及び住所の開示があれば足りるから、原告においては、これらの情報によっても発信者が特定できないような特段の事情のない限り、電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由はないものと主張。
裁判所は、原告は、本件記事の発信者に対して人格権(名誉権)の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求を行うために、被告に対して本件発信者情報の開示を求めているものと認められるから、原告においては、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとしました。
電子メールアドレスについては、被告が保有している発信者の氏名又は名称及び住所が虚偽であったり、当該発信者がその住所から転居したりしていたような場合には、電子メールアドレスが原告において権利行使をするために必要な情報となることも考えられること、法4条1項及びそれを受けて定められた省令の構造に照らせば、原告においては、電子メールアドレスを含む本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるものというべきとして、対象に含めました。
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