FAQ
FAQ(よくある質問)
Q.風俗嬢だとバラすのはプライバシー侵害になる?
風俗嬢であることをネット上でバラす行為がプライバシー侵害だとした裁判例があります。
東京地方裁判所令和2年7月30日判決。
発信者情報開示請求事件です。
事案の概要
原告が、インターネット上の掲示板への記事の投稿により自身のプライバシー、名誉感情又は平穏に生活を営む人格的利益を侵害されたと主張し、投稿に係る発信者情報として氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの開示を求めた事案。
原告は、バンドのファン活動を行っていました。バンドのメンバーや同じファン活動を行っている者の間では、コアなファンの一人として知られていました。
ネット上の掲示板のバンドのスレッドに投稿がされました。本件スレッドでは、主に本件バンドのファン同士が匿名で本件バンドに関する雑談をしており、中には特定のファンについての話題も散見されました。
問題とされた投稿内容
問題になった投稿内容は、
「◇◇クラブC」
「 前の店より加工が下手だね」
の2件。
原告は、本件投稿1は、「◇◇クラブC」と記述するものであるが、インターネット検索をすると風俗店である「◇◇クラブ」で「C」という源氏名で稼働する女性に関する情報が表示され、上位に表示される検索結果では、上記「C」の写真として原告の肖像が掲載されていると主張。
検索結果として表示される画像によると、口元にマスキングが施されているものの、上記「C」の写真として掲載されている肖像は、原告の肖像に酷似していました。
原告が風俗店で稼働しているという事実は、私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれがあり、一般人の感受性を基準にして原告の立場に立った場合に公開を欲しないであろうと認められ、かつ、いまだ一般に知られていない事柄というべきであるから、原告のプライバシーを侵害すると主張しました。
投稿前後の文脈
裁判所が認定下本件投稿の前後の投稿の流れは次のようなものでした。
投稿番号319 令和元年7月7日午後6時36分
「X1’喜怒哀楽が激しくてDさん大変そう」
投稿番号320 令和元年7月9日午後1時34分(本件投稿1)
投稿番号321 令和元年7月10日午前0時22分(本件投稿2)
投稿番号322 令和元年7月10日午前0時23分
「X1’と喋ってる時のD’(ママ)たまに無の顔してて笑いそうになる」
投稿番号323 令和元年7月10日午前9時35分
「この人自分が美人だと思ってるのいつ見ても笑っちゃうw」
投稿番号324 令和元年7月10日午後4時10分
「一人だと大人しいけど仲間といると目立ちたいのか煩いよね」
《中略》
投稿番号329 令和元年7月14日午前0時24分
「ソープ嬢じゃん」
本件バンドのヴォーカルが「D」、作詞やアートワークも手掛けている人物。
開示関係役務提供者該当性
裁判所は、まず開示関係役務提供者の認定を。
本件投稿は、いずれもインターネット上において誰でも閲覧することのできる状態になっていたのであり、これを投稿する行為は、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信として、特定電気通信に当たると指摘。
本件投稿の発信者は、いずれも被告の用いる電気通信設備を経由して本件投稿をしたのであるから、被告は、当該発信者の情報入力に係る特定電気通信の用に供された電気通信設備を用いることにより結果的に他人の通信を媒介したものとして、特定電気通信役務提供者に当たるとしました。
したがって、被告は、法4条1項所定の要件を満たす限り、開示関係役務提供者として、原告に対し、同項の発信者情報を開示する義務を負うこととなります。
権利侵害の有無及びその明白性
法4条1項1号の「権利が侵害されたことが明らかであるとき」とは、権利の侵害がされたことが明白であり、不法行為等の成立を阻却する事由の存在をうかがわせるような事情が存在しないことを意味すると解するのが相当とされています。
いわゆるプライバシーの侵害に対し法的救済が与えられるためには、公開された内容が、私生活上の事実又は事実らしく受け取られるおそれがあり、一般人の感受性を基準にして被侵害者個人の立場に立った場合に公開を欲しないであろうと認められ、かつ、いまだ一般に知られていない事柄であることを要すると解するのが相当であると一般論を展開。
本件投稿は誰についてされたもの?
本件投稿は、いずれもこれが「X1’」を話題としていることを直接うかがわせるような内容を含むものではないが、本件投稿1の前の投稿(投稿番号319)は明らかに「X1’」を話題としており、その更に前の投稿(投稿番号318)がされたのはその17日前に遡ることを踏まえれば、本件投稿1は、投稿番号319の投稿が「X1’」を話題としていることを受けて投稿されたものであり、通常の読者の読み方からすると、同じく「X1’」を話題とするものと認められるとしています。
また、本件投稿2についても、「店」や「加工」に言及していることを踏まえれば、直前の本件投稿1を受けた投稿であるものと認められ、本件投稿1と同じく「X1’」を話題とするものということができるとしています。このことは、本件投稿がされた後も「X1’」の話題が変わることなく続いていることからも裏付けられると指摘。
本件投稿1の「◇◇クラブC」という文字列でインターネット検索をかけると「C」という源氏名の風俗嬢の写真が表示され、その肖像が原告と酷似しているのであるから、口元が隠されているとはいえ、原告のことを知る者が見れば、「X1’」すなわち原告と「C」との同一性を容易に確認することができるものと認められるとしています。
店名・源氏名の投稿が事実摘示になる?
本件投稿1は、前示のとおり本件スレッドにおいて「X1’」すなわち原告の話題が出ている中で、風俗店の店名とそこで稼働する原告の源氏名を投稿することにより、原告が風俗店で稼働している事実を摘示するものと認められると結論づけました。
なお、本件投稿1の読者の中には、読んだだけでは「◇◇クラブC」という文字列が何を意味するのかが分からない者も少なくないものと思われるが、分からなければインターネット検索を試みる者は一定数いるものと考えられ、その結果、原告に関する上記事実が一定数の者に明らかになる限り、上記認定の妨げとはならないものと解するのが相当であるとしました。
本件スレッドでは、本件バンドのファン同士が雑談をしており、個々のファンが普段どのような仕事をしているかといった事柄は、本件スレッドの趣旨ないし目的との関係では飽くまでも私生活上の事実に当たると指摘。
そして、風俗店(取り分けソープランド)で働いているという事実は、一般人の感受性を基準にした場合には公開を欲しないであろう事実であるものと認められ、これまで原告がこの事実を本件バンドのファン仲間を含む層に広く告げていたと認めることもできないと認定。
したがって、本件バンドのファンを主な読者とするものと認められる本件スレッドにおいて、原告が風俗店で稼働している事実を摘示することは、原告のプライバシーを侵害することが明らかであるとしました。
写真はネットで公開されていた点は?
この点に関し、原告が風俗店で稼働しているという事実は、掲載されている「C」の写真によれば、これまでもインターネット上で公開されていたということも可能であるが、この写真は飽くまでも「C」と結び付けられているのであり、現在の技術では、これを「X1’」ないし原告と結び付ける情報が別途存在しない限り、本件バンドのファン(女性が多いものとうかがわれる。)の間で上記「C」の写真を実際に検索して閲覧し得る状態にあったと認めることはできないとしました。
また、被告は、原告が「□□」というツイッターアカウントで上記「C」の写真と同じ写真を公開していると主張するが、そもそもこのアカウントが本件バンドのファンの間で知られていたことを認めるに足りる証拠はないから、単にアカウント名に「X1’」の文字列を含むことのみから「X1’」ないし原告との結び付きを肯定することはできず、原告が風俗店で稼働している事実が本件バンドのファンの間で既知であったことを基礎付けることにはならないと指摘。
他で公開されていたとしても、結びついていない内容であればプライバシーの侵害になるとの認定です。
他の風俗店を匂わせる投稿は?
本件投稿2は、
「 前の店より加工が下手だね」
というもの。
裁判所は、原告の主張するように、本件投稿2について、「X1’」ないし原告が「◇◇クラブ」の前にも別の風俗店で稼働していた事実を摘示するものと認定しました。
この投稿については、これを読んだ者に対し、原告が以前にも別の風俗店で稼働していたことを事実として摘示するだけでなく、本件投稿1の内容がより確からしいとの印象を与える働きをしているということができるとしています。
本件投稿2についても、その程度については差があるにせよ、本件投稿1と同様に、原告のプライバシーを侵害すること自体は明らかというよりほかなく、違法性阻却事由の存在をうかがわせる事実が認められないことも同様であるとしています。
契約者が発信していないと主張している場合は?
被告は、本件契約者に対する意見聴取の結果を踏まえ、本件契約者と本件発信者との同一性が認められないと主張していました。
契約者が、自分は発信していないと主張してくるパターンです。
侵害情報が発信された日時に当該発信に用いられたIPアドレスが割り当てられていた通信サービスに係る利用契約を特定することができたとしても、いわゆるプロバイダにおいて把握しているのは、当該プロバイダとの間で上記利用契約を締結している者に関する情報にとどまり、契約者と実際に上記侵害情報を発信した者との同一性は保障されていないと前提を確認。
具体的に考えても、契約者が会社その他の法人である場合には、法人である契約者と通常自然人である発信者とは常に異なることとなるし、一般家庭を例にとっても、契約者は父親であるが、発信者はその息子であるといった場合は往々にして考えられるところであり、これらの場合に、契約者と発信者との同一性が証明されなければ発信者情報の開示が一切認められないとすれば、法による発信者情報開示の実効性を欠くこととなることは明らかであると指摘。
このような観点も考慮の上、法は、「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報」を広く「発信者情報」に含めることとしているものと解され(法4条1項)、同項の委任を受けた省令は、「発信者その他侵害情報の送信に係る者」の氏名又は名称及び住所が発信者情報に当たるとしている(省令1号、2号)とも言及。
契約者と発信者との同一性が認められない場合であっても、契約者と発信者との間に一定の関係(家族、従業員等)がある場合が多いと思われることからすれば、契約者の氏名又は名称及び住所は、一般に、発信者の特定に資する情報である蓋然性が高いというべきであり、原則として、「侵害情報の送信に係る者」の氏名又は名称及び住所として「発信者情報」に含まれるものと解されるとしています。
本件契約者が本件発信者と同一人であるかどうか、仮に同一人でないとして、本件契約者が本件発信者の行為につき何らかの責任を負うべきであるか等については、その開示を受けた後の訴訟等において別途認定判断がされるべきであると結論付けています。
発信者情報訴訟での通常の判断といえます。
メールアドレスの開示についての判断
他方で、省令は、電子メールアドレスについては発信者のものに限定しており(省令3号)、氏名又は名称及び住所とは明確に区別している点について指摘。
これは、電子メールアドレスが個人ごとに割り当てられる場合が多く、プライバシー性がより高い上、現状では、氏名又は名称及び住所が明らかにされる限り、これとは別に訴えの提起その他の権利行使のために必要不可欠な情報とまではいい難いことによるものと思われ、このような省令の趣旨を踏まえると、契約者の電子メールアドレスについては、ここでいう「発信者情報」に含まれるものと解することはできないとしました。
電子メールアドレスについては、本件契約者において本件発信者との同一性が認められないとの意見を述べている(乙第1号証及び第2号証によれば、本件契約者は、いずれも家族又は同居者が本件発信者である場合の回答書を送付している。)以上、原告においてその同一性を立証することを要し、本件では、その同一性を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ないから、原告においてその開示を求めることはできないというべきであるとして、開示情報から外しました。
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