犬が吠えたことで賠償義務を負ったペット損害裁判。横浜市の法律事務所

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Q.犬が吠えただけで400万円以上の賠償義務を負った裁判とは?

ペットである犬が吠えたことで損害賠償義務を負った事例があります。

横浜地方裁判所平成13年1月23日判決です。金額も高額となっているので、ペットを飼う人はチェックしておいた方が良いでしょう。

 

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.8.7

事案の概要

原告は、被告の飼い犬に吠えられたため、転倒して傷害を負いました。

そこで、民法718条(動物占有者の責任)に基づき、その損害賠償請求をした事件です。

民法718条1項

動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。

 

犬が吠えた状況

原告は、平成11年4月1日午後6時40分ころ、神奈川県鎌倉市の自宅前道路角で佇立。

被告は、その飼い犬(犬種ラブラドールレトリバー、年齢一歳五ヵ月、雌、大型犬)にリードを付けて散歩に連れ出し、原告方前方道路にさしかかりました。

犬が吠える

すると、突然、本件犬が原告に向かって吠えかかったことから、原告は、驚愕のあまり歩行の安定を失って、その場で転倒。

左下腿骨骨折(両骨幹部)の傷害を受けてしまいます。

原告は、本件事故により、平成11年4月1日から同年11月17日まで、接骨院において、通院治療。原告は、本件事故から約12日間は、痛みのためほとんど眠れない状態。その後、左足にギブス固定を受け、全く体を動かせない状態が約50日間続いた。その間、原告は、医師の往診を受け、その後、通院、実質治療回数は80回を越していました。

 

原告の転倒事情

原告には、先天性の左股関節脱臼があり、左足が右足に比べ約五センチメートル短く、そのため、杖を用いなければ歩けない状況でした。

本件事故時ころは、外気を吸うため、家から自宅前の道路に出て、右手に杖を持ち、左手で道路上のミラーポールを掴み佇立していたのでした。

被告は、会社から帰宅し、本件犬に長さ約1.4メートルのリードを付けて散歩に出ました。本件犬が先に行き、被告は、その後からついて行ったという状況。

犬が路地を抜け、ブロック塀を左側に曲がり、被告が未だ路地にいたときに、本件犬が「ワァン」と一声吠えたのでした。

原告は、本件犬の存在に気がつかなかったため、本件犬が吠えたことに驚愕し、左手をミラーポールから離したことにより安定を欠き、その場で仰向けの状態で倒れたという事情です。

杖

 

 

犬が吠えたことと原告の受傷との間に相当因果関係がある

裁判所は、犬が吠えたことと傷害との間の相当因果関係を肯定

たしかに、本件犬の行為としては、単に一回、原告に対し、吠えたというにすぎず、原告に飛び掛かろうとしたことはないものでした。

しかしながら、本件犬が原告に向かって吠えたことは、原告に対する一種の有形力の行使であるといわざるを得ず、犬の吠え声により、驚愕し、転倒することは、通常ありえないわけではないから、本件犬が吠えたことと原告の転倒、ひいては、原告の受傷との間には、相当因果関係があるというべきだとしました。

 


本件犬の保管に過失があった

裁判所は、被告の過失も認定しました。

被告は、「飼い犬を散歩に連れ出す際、飼い犬が吠えないようにする注意義務は、社会通念上、動物の占有者に課されてはおらず、神奈川県動物保護管理条例も散歩において、犬が吠えることを禁じていないし、また、この制御を飼育者に要求することは甚だ酷と言わなくてはならない。」から、本件犬の保管に過失はないと主張していました。

裁判所は、犬は、本来、吠えるものであるが、そうだからといって、これを放置し、吠えることを容認することは、犬好きを除く一般人にとっては耐えがたいものであって、社会通念上許されるものではなく、犬の飼い主には、犬がみだりに吠えないように犬を調教すべき注意義務があるというべきであるとしました。

特に、犬を散歩に連れ出す場合には、飼い主は、公道を歩行し、あるいは、佇立している人に対し、犬がみだりに吠えることがないように、飼い犬を調教すべき義務を負っているものと解するのが相当と指摘。

そうとすると、被告の飼い犬である本件犬が原告に対し吠えたことは、被告がこの義務に違背したものといわざるを得ないとし、被告の本件犬の保管には過失があるとしました。


動物を飼っている者は、その飼育から生ずる一切の責任を負担すべきであり、また、犬を調教することによって、これを達成することも可能であるから、酷であるとも言い難いとしました。

過失というより、結果論のようなロジックであると感じます。犬の飼い主には重い責任が負わされています。

調教義務

原告の損害は、特別の事情ではない。

被告は、原告の受傷は、原告の身体的特徴に基づく「特別の事情」によって生じた損害といえると主張していました。

確かに、原告には先天性の股関節脱臼が存在し、歩行が困難であり、本件犬に吠えられる前に、ポールに掴まっていたが、本件犬が吠えたため、びっくりしてポールから手を離したことにより、身体の安定を欠き、転倒したものでした。

しかしながら、通常人であったとしても、犬の吠え声により、驚愕し、身体の安定を損ない転倒することは、通常ありえないわけではなく、また、転倒すると、老人などでは骨折する可能性が高いことが予見できるのであるから、原告の転倒や原告の受傷が特別事情であるということはできず、被告の上記主張は採用できないとして排斥しています。

 

損害額が500万円以上

裁判所は、トータルで500万円以上の損害を認定しています。

治療費として17万8840円。

交通費が1万3180円、雑費が3万3040円。

診断書料は、6000円。

本件事故日である平成11年4月1日から同年7月29日までの120日間については、原告への付添看護料を認めるべきであり、その額は一日3000円、付添看護料は36万円を認定。

原告は、本件事故により、左大腿骨骨折の傷害を受け、そのため、原告の夫の経営する税理士事務所に出勤することができず、7ヵ月間欠勤。

休業損害額は、月収37万円に対し、8月に支払われる賞与一ヵ月分を加えた8ヵ月分を乗じた296万円であるとしました。

休業損害

被告は、原告の性別及び年齢等諸般の事情を考慮すると、原告の基礎収入は明らかに過大である旨主張していました。確かに、専従者給与というものは、名目的に支給される場合が多く、損害額の算定の際に、その根拠とならない場合が多いことは否定できないが、本件の場合には、原告は、事故前には、税込み月額37万円を現実に受領していたのであるから、この金額を基礎収入とすることは、当然であり、被告の主張は採用できないとしています。

 

慰謝料は170万円

裁判所は慰謝料についても認定しています。

原告は、本件事故により、左大腿骨骨折の傷害を受け、当初の約12日間は、苦痛のため眠ることもできず、また、その後の約50日間は、全く体を動かすことができない状態であり、完治までは、231日間が必要とされ、その間の実通院日数も80日を越えるものであった。そうとすると、そのような原告の精神的苦痛を慰謝するためには、金170万円を被告に支払わせるのが相当であるとしています。

これらにより、弁護士費用を除く原告の被った損害額の合計は、525万1060円と認定しました。

 

犬が吠えた事故で過失相殺はない

被告は、「原告は、自分が転倒した場合には重大な結果に至ることを認識しつつ、公道に立っていたのであり、その意味で、自らリスクに接近したということができるから、原告には過失があり、その過失割合は4割とするのが相当である。」と主張していました。

しかし、裁判所はこれを否定。


先天的股関節脱臼により、歩行が困難であるとしても、公道に出て外気を吸うことは、人間としての自由権の範囲内にあり、しかも、原告は、ミラーポールを握り、杖をついていたのであるから、原告が公道に佇立していたことが過失となるとはいえないと指摘。

原告の過失を肯定することは、身体障害者に対し、外出を禁ずることにもなりかねず、社会通念上相当とはいえないとしています。

 

身体的特徴による減額は2割

過失相殺の直接の適用は否定しましたが、身体的特徴による類推適用は認定。

原告は、先天的股関節脱臼により、左足が右足より短いため、佇立した場合の安定感が損なわれており、本件犬が吠えたことにより、驚愕して、左手をミラーポールから離したため、右手に持っていた杖だけでは、身体の安定を保つことができず、転倒し、本件受傷に至ったものであるとしました。

そうとすると、原告は、先天的股関節脱臼という疾病に基づく身体的特徴により、原告の損害を拡大させたということができると指摘。民法722条2項の類推により、原告の損害額を減額すべきであり、その割合は、2割とするのが相当であるとしています。

 

これらから既払い金を控除、弁護士費用を加算して、438万4098円の支払いが命じられています。

犬の飼い主としては、怖い判決でしょう。十分な注意をするほか、保険なども検討が必要だといえます。

 

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弁護士 石井琢磨 神奈川県弁護士会所属 日弁連登録番号28708

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