マンション管理組合による使用制限が違法とされた裁判例。横浜市の法律事務所

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FAQ(よくある質問)

 

Q.マンション管理組合による使用制限が違法に?

マンション管理組合が、専有部分の事務所使用の承諾を拒絶したことで不法行為責任を負った事例があります。理事会などで判断するときには押さえておきたい判例です。

東京地方裁判所平成4年3月13日判決です。

マンションの法律問題

 

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.8.7

事案の概要

原告は、自己が所有するマンションの専有部分についてコンピュータソフト開発会社との間で賃貸借契約を締結。

しかし、管理組合がこの契約を承認せず。

原告は、そのため、賃貸借契約を合意解約せざるを得なくなったと主張。

管理組合を被告として、損害賠償請求をしたものです。

 


本件マンションの構造及び設備等

本件マンションは、小田急線経堂駅から徒歩一分の交通至便の地にありました。

昭和51年11月新築。地下一階、地上一〇階建の鉄骨鉄筋コンクリート造。各階10戸前後合計110戸ほどの専有部分を有する大規模区分所有建物でした。

構造上、2階以下が店舗用に、地上3階以上が住居用にそれぞれ適した構造。

右店舗用部分と居住用部分は非常用階段を除いては出入口が別個になっており、居住用エレベーターは店舗利用者は使用できないしくみとなっていました。

マンション
本件マンションの3階以上は、本件専有部分を除くと、事務所として使用されている3室を除いて居住用に使用されています。この3室は、本件マンション販売直後から事務所として使用されているものであり、会計事務所、大学教員の研究室及び芸能人のスケジュール管理室としてそれぞれ使用されてきたものでした。


なお、昭和58年ころ、本件マンションの一室が学習塾として使用されていたところ、原告を含む本件マンション居住者が学習塾の閉鎖を要求し、学習塾は閉鎖されました。また、指圧マッサージ師及び旅行代理店が、その使用部分が居住用であることを理由に退去した例もありました。

 

新規約発効以前の本件専有部分の使用状況

原告は、昭和53年2月に、同人が代表者をしている株式会社名義で本件マンション2階の店舗部分を購入。

以来同所でレストランを経営。

昭和53年4月、8階にある本件専有部分をレストラン従業員の休憩用事務所兼倉庫という目的で賃借し、事実上事務所として使用してきました。

昭和63年7月28日、本件専有部分を購入し、同年8月26日、その旨の登記。

売買登記
原告は、本件専有部分を利用して長期にわたり安定した賃料収入を得ることとし、平成元年1月ころから不動産会社を通じて本件専有部分を事務所用の物件として賃借人の募集を始め、チラシの配布、雑誌への広告掲載等を行い、同年3月15日、有限会社に対し、本件専有部分を賃料月額20万円、賃貸期間2年間、賃貸目的「住居兼事務所」という条件で貸し渡し、右会社は、翌日から芸能プロダクションの事務所として使用を開始したものでした。


なお、原告と同社間の賃貸借契約は、より広い事務所が見つかったとの理由で、同社の申出により、同年7月10日、合意解除されました。

 


規約改正及び新規約の発効

被告は、平成元年3月12日、被告総会において管理規約を改正し、その12条において、専有部分の用法に関しては住居部分(三階以上の建物部分をいう。)を事務所に使用する場合は被告の承認を受けなければならない旨規定し、新規約は同年4月1日付けで発効する旨決定しました。


この総会の際、規約改正前に既に占有者の使用目的が事務所となっている住居部分については、旧規約では住居部分を事務所として使用することも認めていたのでそのまま事務所として使用することを承認し、以後は事務所を増やさないとの方針が承認されました。

 

本件賃貸借契約の締結

原告は、同年9月7日、株式会社との間で、本件専有部分を賃料月額20万円、権利金40万円、賃貸期間2年間、賃貸目的「住居・事務所」という条件で賃貸する旨の本件賃貸借契約を締結。

賃貸借契約書


ちなみに、同社は、コンピューターソフトの開発を業とする会社であり、従前は新宿区において2,3名の女性従業員が2台ほどのパソコンを利用して営業している程度の小規模の会社でした。

 

管理組合による承認拒絶、賃貸借契約の合意解約

原告は、新規約の規定に従い、同月6日及び10日、管理組合に対し、本件専有部分の事務所としての使用について承認を要求。

しかし、被告は、同月16日の理事会において承認を拒絶することを決定。その旨を同月18日付けで原告に通知。

被告が承認を拒絶し、また本件専有部分の電話回線の増設も認めない姿勢だったので、原告は、仮に賃借人を入居させても賃借人に迷惑をかけることになると判断し、右の事情を伝え、原告と同社は、同年9月20日、本件賃貸借契約を合意解約。


原告は、同年11月14日、被告に対し、承認拒絶の理由を問いただしたところ、被告は、原告に対し、承認拒絶の理由として、新規約制定総会において本件専有部分についての事務所としての使用が承認されていないこと、今後事務所としての使用部分が増えるとスプリンクラー等の消防設備等の設置義務が生じる等の不都合があること等を指摘。


損害の発生

原告は、本件専有部分の購入資金を銀行から借り入れていました。その返済として一か月約20万円を銀行に支払わなければならなかったため、賃料収入を支払いに充当する予定でした。


原告は、本件専有部分を事務所として使用できるようにするための改修工事を実施し、平成元年11月10日、工事業者に対して右改修工事費用として85万円を支払いました。

内装工事

原告は、本件賃貸借契約を合意解約した後、賃貸条件を変更し、賃料を月額17万5000円とし、被告の態度を考慮し、使用目的を居住用として本件専有部分の賃借人を募集。平成元年11月から平成2年6月にかけて住宅情報誌にその旨の広告を掲載し、あるいはチラシを配る等の募集活動を行ったが、結局賃借人は見つかりませんでした。

このような状況の中で、原告は、借入金の金利負担に耐えかね、平成3年3月14日、本件専有部分について売却

その際、原告は、本件専有部分の内装が事務所用になっていたので、住居用に改装するための費用として100万円を売却代金から値引き。

 

管理組合の承認義務が争点

被告が本件賃貸借契約を承認すべき義務があるか争われました。


原告の主張は、次のとおり。

被告は、新規約制定総会において、新規約の発効時期を同年4月1日と決定し、規約改正前に既に占有者の使用目的が事務所となっている住居部分についてはそのまま事務所としての使用を承認する旨の方針を承認したものであるところ、原告は、同年3月15日、本件専有部分を住居兼事務所の使用目的で賃貸する契約を締結し、新規約が発効した時点では本件専有部分は事務所として使用されていたと主張。


したがって、本件専有部分を事務所として使用できるという原告の既得権は保護されるべきであるのに、被告は、原告の既得権を承知しながら故意に本件賃貸借契約を承認せず、新賃借人の入居を拒否し、原告の所有権を違法に侵害したという主張です。

 

管理組合の承認義務に対して被告は反論

これに対し、被告の反論は次のとおり。

昭和52年8月ころ、マンション部総会と称する集会が開かれ、右集会に出席した三階以上の区分所有者及び居住者全員は、本件マンションの三階以上の建物部分について、当時事務所として使用されていた三室を除いては事務所としての使用を認めず、住居専用に限る旨合意し、その後、右合意は、本件マンションの管理運営における慣行となり、新規約が発効する平成元年4月1日まで効力を有したと主張。原告もこの合意の存在を知っていたはずであると主張。

また、原告が平成元年3月15日に本件専有部分を賃貸した事実はないと反論。同年4月1日の時点で本件専有部分は事務所として使用されていなかったと主張しました。

仮に、賃貸したとしても、その契約における本件専有部分の使用目的は店舗であったから、旧規約26条1号により契約の締結及びそれに基づく使用は許されなかったと反論。

慣行

事務所としての使用に被告の承認を要求した趣旨は、本件マンションの三階以上の居住用部分の事務所としての使用を制限することで、防火設備、電気設備等につき問題が生じることを回避し、さらに、居住環境の悪化を防止することにあると強調。
賃借人は、コンピュータ会社であり、大規模な電気設備を必要とするからその事務所としての使用は不適当であり、被告が本件賃貸借契約を承認しなかったことは、新規約12条の趣旨に照らし、正当な理由に基づくものであり有効であると反論しました。

さらに、総会において原告の代理人として出席した原告の妻が事務所の増設を認めない旨の決議に賛同したことも考えれば、新規約発効直前に事務所使用を開始することは信義則に反するとも主張しました。

 

裁判所は過去の合意は否定

過去の合意はないとしました。

被告は、昭和52年8月、本件マンションの三階以上の建物部分について事務所としての使用を認めない旨の合意が成立したと反論しています。

しかし、被告が主張する右合意は各区分所有者の所有権を大幅に制限する内容であるにもかかわらず、右集会あるいは合意の存在を裏付ける客観的な証拠は存在しないと指摘。

かえって、その体裁及び内容に照らして本件マンションの販売時に販売業者が作成し、全購入者の承諾を得て有効に成立したものと推認できる管理規約が存在すること、また、新規約付則六条には新規約発効時までは旧規約が効力を有することを前提とするかの如き記載があること、さらに、被告の原告に対する通知書には被告組合員の自主的判断で昭和55年ころから本件マンションの事務所としての使用を抑制してきた旨の記載があること等の事情を総合すれば、被告主張の右合意の存在を認めることはできないとしました。

 

また、学習塾閉鎖等の事実があったとしても、いずれも多数人の出入りする特殊な使用形態であり、これをもって直ちに事務所としての使用を制限する合意の存在を裏付けるものとはいえないとしました。

 

制限は不利益を比較考量して判断すべき


原告と旧賃借人間の賃貸借契約書には、賃貸の目的として住居兼事務所と記載されており、右契約締結前の平成元年2月22日付け賃貸物件の雑誌の広告には、本件専有部分は事務所として紹介されており、原告の供述もこれに沿うものであるから、この賃貸借契約はあったと認定しました。

新規約12条1項は、区分所有者か住居部分を事務所に使用する場合には被告の承認を受けなければならない旨規定しているが、被告が右の承認を与えるか否かは、住居部分を事務所に使用しようとする区分所有者に重大な影響を及ぼすのであるから、その判断に当たっては、事務所としての使用を制限することにより全体の区分所有者が受ける利益と、事務所としての使用を制限される一部の区分所有者が受ける不利益とを比較考量して決定すべきであると指摘。

判断基準


これを本件についてみると、たしかに、事務所としての使用を無制限に放任した場合は、床の荷重の問題のほか、消防設備あるいは電話設備等の改修工事の要否等、波及する影響は大きく、費用負担の軽減及び居住環境の悪化防止等の観点からも、その制限には一般論として合理性を是認できないわけではないと言及。

しかし、本件においては、マンション分譲時に成立した旧規約の26条に専有部分のうち住居部分は住居又は事務所以外の用に供してはならない旨の定めがあり、本件専有部分の属する3階以上の建物部分についても事務所としての使用が許容されていたと認められるのであるから、区分所有者にとってその同意なくして専有部分を事務所として使用することが禁止されることは所有権に対する重大な制約となることはいうまでもないところであると指摘。

コンピュータ会社
特に、原告は、今回の規約改正の10年以上前から本件専有部分を賃借して事務所としての使用を開始し、2年余り前にはこれを購入し、右規約改正の1か月以上前から事務所用の物件として賃借人を募集し、新規約発行時には賃借人が本件専有部分を現実に事務所として使用していたのであるから、その既得権を奪われることによる原告の不利益は極めて大きいといわざるを得ないとしました。

しかも、賃借人は、コンピューターソフト会社で、従業員が二、三名という小規模な会社にすぎず、その入居を包めることにより床の荷重の問題が生じたり、あるいは消防設備等を設置することが不可欠となるかは疑問の余地がないではなく、また、本件専有部分を事務所として使用することにより直ちに著しく居住環境が悪化するとも思えないのであって 事務所としての使用を認めることによる被害が重大なものとはいいがたいと指摘。


双方の利害状況を比較考量すれば、本件の承認拒絶により原告が受ける不利益は専有部分の所有権者である原告にとって受忍限度を越えるものと認められるから、被告は、本件賃貸借契約を承切する義務を負っていたものとするのが相当であるとしました。


管理組合は、賃貸借契約の承認を拒絶することにより、原告の所有権を違法に侵害したものと認定しました。

 

妻の賛同も信義則違反にならない

なお、信義則違反の点については、総会に原告の代理人として出席した原告の妻が事務所の増設を認めない旨の決議に賛同したとしても、総会においては規約改正前に占有者の使用目的が事務所となっている住居部分についてはそのまま事務所としての使用を承認する方針が承認されたのであり、しかも、新規約の発効が同年4月1日となっていた以上、原告の妻が原告についてはいずれにせよ事務所としての使用が許されると解したとすれば何ら非難すべき点はないし、また、同女が決議の内容を被告主張のような意味で理解していたか疑問なしとしないのであり、右事実をもって原告が事務所としての使用の利益を放棄したと解することはできないとしています。

 

管理組合の行為による損害の額

被告は、本件専有部分は、建築構造上、居住用として設計、建築されているため居住用として賃貸しても事務所用として賃貸しても賃料に差異はなく、本件マンションの近隣の家賃の相場においても両者に差異はないと主張。

原告に損害はないと主張しました。

しかし、裁判所は、被告の承認拒絶により、平成元年10月1日から平成3年5月13日までの間の賃料相当額388万3870円、権利金相当額40万円及び改修工事費用額85万円の損害を受けたと認定。

損害額


原告は、本件賃貸借契約合意解約後、本件専有部分を居住用として賃貸しようと努力したにもかかわらず、賃借人を見つけることができなかったのであって、ことさら原告が賃貸の努力を怠り、損害を拡大させたような事情は認められないのであるから、被告の反論は採用できないとして排斥しました。

 

管理組合、理事会による注意事項

マンションでは、管理規約で専有部分の使用についていも規制することができます。専有部分の使用方法を制限することも、建物全体の維持管理や共同生活上の秩序維持の要請に基づくものであれば、有効とされるものです。

本件では、管理規約変更によって、専有部分の使途を制限することとされました。この管理規約変更自体は有効であるものの、個別の承認を出すかどうかの際には、不当な制限をすることで、管理組合が損害賠償義務を負うことがあると示しています。

管理規約を変更したからといって、管理組合の裁量が無制限に認められるわけではない点に注意が必要でしょう。

 

 

マンション問題等では参考にしてみてください。

 

 

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