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FAQ(よくある質問)

 

Q.アイドル契約の解約で損害賠償請求?

アイドルが男性と交際した問題、契約を解除するといった問題について、芸能プロダクションより訴えられた事例です。

プロダクションとアイドルとの契約の性質や、損害賠償義務が争われました。

著者 弁護士石井琢磨

 弁護士石井琢磨
 更新:2021.8.7

東京地方裁判所平成28年1月18日判決です。

アイドル損害賠償

事案の概要

原告は、芸能プロダクション。芸能タレントの育成及びマネージメント等を目的とする株式会社でした。

被告アイドルとの間で専属マネージメント契約を締結(当時19歳、親権者の同意あり)。アイドルグループに所属して活動していました。

被告アイドルとそのファンである被告男性とが交際を開始。

それを機に、共謀の上、イベント等への出演業務を一方的に放棄するなどして原告に逸失利益等700万円以上の損害を生じさせたと主張。被告アイドルの両親にまで監督義務違反だとして損害賠償請求をしたというものです。

アイドル辞めます

被告アイドルは、平成26年7月11日、原告に対し、メールを送りました。


「ずっと前から考えてたんですけど、自分がこの前22歳になってもうアイドルとして22歳って結構年齢的にやばいし、水着の撮影だって、今回はもしかしたらやらなくてもおっけいでももし全員でってのも今後きっと出てくるだろうし、水着は絶対に出来ないし、やりたくないし、この活動しててほんとライブとかメンバーとかといて楽しいんですけど、髪の毛とか暇さえあれば抜いちゃったりしちゃってどこかストレス感じてて そして、安定しない収入で親にもうこの年になってまで迷惑かけたくなくて、ちゃんと就職して安定したいです。だから、急で直接だと上手く言えないからメールで伝えますが今年中に辞めます。本気なので、親にもう辞めることも言ってあるし、どう言われようが意見は曲げません。」

メール

原告は、これに返信。
「『辞める』という話は了解だから時期だけは従ってな 多分メジャーデビューしてこれから関わる人増えるし自分の都合だけじゃ動けないから とにかく来年5月周辺で卒業できるように調整するからそれまでは今まで通り武道館目指して頑張るべし!!」


被告アイドルは、平成26年7月20日、本件グループのライブに出演せず、同年8月16日までの間、原告からの連絡に応じませんでした。
なお、本件ライブは中止されることなく開催され、チケットの払戻しが求められることはありませんでした。


被告アイドルは、平成26年7月26日、原告に対し、内容証明郵便を差し出しました。

そこには、「民法第651条第1項に基づき、2014年7月11日にメールで伝えた通り2014年7月11日をもって貴社との業務委託を解除します。」との記載がありました。


Q.内容証明郵便の書き方、出し方は?

被告アイドルに本件契約の債務不履行があるか、不法行為が認められるか

原告は、これらを理由に、損害賠償請求をしています。

その具体的な理論構成としては、被告アイドルに対するイメージが本件グループ全体及び原告の売上に大きく直結する状況にあった中で、被告アイドルは、人気商売である本件グループに所属するメンバーとしては致命的ともいえる異性であるファンとの男女関係を継続するという活動義務違反行為を行ったとし、本件契約に基づく以下の出演業務の遂行義務のほか、活動義務に違反する行為であり、本件契約の債務不履行に該当するというものでした。

契約書上は、出演義務について、原告が被告アイドルの出演業務に関して第三者との間で契約を締結した場合には、被告アイドルは原告の指示に従って誠実に当該出演業務を遂行しなければならないとの規定がありました。

また、損害賠償の規定として、被告アイドルが本件契約に違反し原告が損害を負った場合は、原告は直ちに損害賠償を請求できるものとする。」旨の定めがあり、次の行為でも同様とするとの規定がありました。

  • いかなる理由があろうと仕事や打ち合わせに遅刻、欠席、キャンセルし、原告に損害が出た場合
  • 電話もしくはメールで連絡が付かず損害が出た場合
  • ファンと性的な関係をもった場合またそれにより原告が損害を受けた場合
  • あらゆる状況下においても原告の指示に従わず進行上影響を出した場合
  • その他、原告がふさわしくないと判断した場合

裁判所は、被告アイドルの行為は、少なくとも形式的には本件契約の上記各条項に違反するように思われるとしつ、本件契約の債務不履行に当たり損害賠償義務を負うか、あるいは原告に対する不法行為に当たり損害賠償義務を負うかについては、なお考慮すべき事項があるので、その契約の性質を判断するべきだとしました。

本件契約の解除とその時期

被告アイドルは、7月11日のメールにより、原告に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をし、原告からの承諾による合意解除が成立したと主張。

原告は解除の合意をしていないと主張。

被告アイドルが根拠とする、民法651条1項等の無理由解除権はないと主張しています。

その契約の法的性質として、専属的なマネージメント契約として多くの複合的かつ重要な合意が契約内容となっており、全体として評価した場合に、準委任や雇用といったいわゆる民法上の典型契約に引き寄せて解釈することは不適当と反論。

仮に、本件契約に準委任契約の要素が一部あると判断された場合でも、本件契約は原告及び被告アイドル双方のための契約であり、解除原因を詳細に定めており、また契約期間の定めを明確に設けている以上、双方とも任意解除権(民法651条1項等に基づく解除権)を放棄していると解すべきであると主張。

反論

さらに、業界全体の問題として、仮に被告アイドルのような芸能タレントの一存でいつでも専属マネージメント契約を解除することがまかり通るのであれば、原告のような芸能事務所がいかに誠実に芸能タレントの育成に努めようと、芸能タレントの一存でいつでも契約が解除できることになり、売れっ子になった芸能タレントがその一存で契約を解除して他の事務所へ移籍することが可能となる点も指摘。

そうすると、芸能事務所は芸能タレントに対する育成的観点からの投資は必然的に控えざるを得なくなり、既に名の売れている芸能タレント以外の芸能タレントにとってデメリットが大きく、ひいては業界全体へ大きな悪影響を及ぼすことになると主張しました。


このような専属契約の法的性質について、委任契約か雇用契約の性質を有すると争われることが多いです。

両契約の差異は、受任者に裁量権があるか、使用者の指揮命令の下にあるかであると言われます。

専属マネジメント契約の法的性質

本件契約の性質について裁判所は判断しました。

契約の実情に照らすと、本件契約は、被告アイドルが原告に対してマネージメントを依頼するというような被告アイドルが主体となった契約ではなく、原告が、所属の芸能タレントとして被告アイドルを抱え、原告の具体的な指揮命令の下に原告が決めた業務に被告アイドルを従事させることを内容とする雇用類似の契約であったと評価するのが相当であると位置づけました。


そうすると、被告アイドルによる解除の意思表示は、3年間という期間の定めのある雇用類似の契約の解除とみることができるから、本件契約の規定にかかわらず、民法628条に基づき、「やむを得ない事由」があるときは、直ちに本件契約を解除することができるものと解するのが相当であるとしました。

解除の可否について、委任契約方向ではなく、雇用契約の方に近いと判断したものです。

裁判所はやむを得ない事由で解除を認める

そすると、「やむを得ない事由」があったかを検討することになります。


まず、契約における報酬体系について、原告が被告アイドルに支払った上記報酬は原告がその都度自由に決めたものにすぎず、被告アイドルに対し、報酬としていついくら支払われるかの保証もなかったものと認められるとしています。。他方で、原告は、本件契約に詳細かつ包括的な禁止事項とその違反による損害賠償義務を定めた上で、被告アイドルが一か月活動しなかったことを理由に根拠も示さずに300万円もの損害賠償を請求している点を指摘。

そうすると、本件契約は、「アーティスト」の「マネージメント」という体裁をとりながら、その内実は被告アイドルに一方的に不利なものであり、被告アイドルは、生活するのに十分な報酬も得られないまま、原告の指示に従ってアイドル(芸能タレント)活動を続けることを強いられ、従わなければ損害賠償の制裁を受けるものとなっているといえると指摘。

ゆえに、本人がそれでもアイドル(芸能タレント)という他では得難い特殊な地位に魅力を感じて続けるというのであればともかくとして、それを望まない者にとっては、本件契約による拘束を受忍することを強いるべきものではないと評価されるとしました。

このような本件契約の性質を考慮すれば、被告アイドルには、本件契約を直ちに解除すべき「やむを得ない事由」があったと評価することができるとしました。

報酬などの規定から、アイドル側からの解除を認める内容です。

アイドル契約の解除時期

7月11日のメールでは、「今年中に」辞めるという条件が付されているため、これをもって本件契約を直ちに解除する旨の意思表示があったと認めることはできないとしました。

また、内容証明郵便には、「2014年7月11日をもって」本件契約を解除すると記載されているが、本件契約は雇用類似の契約であり、民法六三〇条、六二〇条前段から解除は将来に向かってのみその効力を生ずると解されるから、7月26日付け内容証明郵便が原告に到達した時に、解除の効力が生じたものと認められるとしました。


内容証明郵便を使ったことで解除日が特定できたことになります。効果的な使い方でした。

Q.内容証明郵便の書き方、出し方は?

解除された場合の損害賠償は?


解除時期からすると、被告アイドルが平成26年7月20日の本件ライブに出演しなかった行為及び解除の効力発生前の同月26日までの7日間に本件グループの活動に従事しなかった行為は、原告に対する債務不履行に該当するが、解除の効力発生後の同月27日以降の活動停止については、債務不履行に該当しないとしました。

被告アイドルは、上記解除の効力発生までの間に、ファンである被告男性と性的な関係を持っている点が問題になります。

この点について、確かに、タレントと呼ばれる職業は、同人に対するイメージがそのまま同人の(タレントとしての)価値に結びつく面があるといえる、その中でも殊にアイドルと呼ばれるタレントにおいては、それを支えるファンの側に当該アイドルに対する清廉さを求める傾向が強く、アイドルが異性と性的な関係を持ったことが発覚した場合に、アイドルには異性と性的な関係を持ってほしくないと考えるファンが離れ得ることは、世上知られていることであるとしています。

それゆえ、アイドルをマネージメントする側が、その価値を維持するために、当該アイドルと異性との性的な関係ないしその事実の発覚を避けたいと考えるのは当然といえるとも理解を示しています。


しかしながら、他人に対する感情は人としての本質の一つであり、恋愛感情もその重要な一つであるから、かかる感情の具体的現れとしての異性との交際、さらには当該異性と性的な関係を持つことは、自分の人生を自分らしくより豊かに生きるために大切な自己決定権そのものであるといえ、異性との合意に基づく交際(性的な関係を持つことも含む。)を妨げられることのない自由は、幸福を追求する自由の一内容をなすものと解されると指摘。

とすると、少なくとも、損害賠償という制裁をもってこれを禁ずるというのは、いかにアイドルという職業上の特性を考慮したとしても、いささか行き過ぎな感は否めず、芸能プロダクションが、契約に基づき、所属アイドルが異性と性的な関係を持ったことを理由に、所属アイドルに対して損害賠償を請求することは、上記自由を著しく制約するものといえるとしました。

また、異性と性的な関係を持ったか否かは、通常他人に知られることを欲しない私生活上の秘密にあたるとしています。そのため、原告が、被告アイドルに対し、被告アイドルが異性と性的な関係を持ったことを理由に損害賠償を請求できるのは、被告アイドルが原告に積極的に損害を生じさせようとの意図を持って殊更これを公にしたなど、原告に対する害意が認められる場合等に限定して解釈すべきものと考えるとしました。


これにより、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求は否定しました。

アイドルであっても、異性との交際は、自己決定権に基づくものとして認められるべき、殊更に公開するなどしなければ、損害賠償義務は負わないという判断です。

ライブ欠席の損害

そうすると、残されたのは、解除前のライブ欠席です。

これによって、原告に損害が生じたのか検討されました。

裁判所は、グッズ販売が中止され在庫が生じたことを認めるに足りる証拠はないとしてグッズ在庫の損害は否定。

また、本件ライブについてチケットの払戻しは発生しておらず、逸失利益も否定。

ライブ

仮押さえしていた出演業務の中止を余儀なくされたと主張するが、いつのどのような出演業務を中止したかを特定しておらず、また、そのことを裏付ける証拠を一切提出しないとして、グループとしてのライブ出演その他の活動を行うこと自体には支障がなかったと認められるとし、賠償が必要なほどの信用毀損が原告に生じたとまでは認められないとして、損害はないと判断しました。

アイドルと付き合った男性の違法行為

交際男性も被告に含まれていましたが、アイドル自身が損害賠償義務を負わないという結論ですので、被告男性も賠償義務は負わないという結論となります。

ただ、裁判所は、なお書きで、男女交際について言及しています。


異性に恋愛感情を抱くことは人としての本質の一つであり、その具体的現れとして当該異性と交際すること、さらに当該異性と合意の上で性的な関係を持つことは、人の幸福追求権の一場面といえるとしています。

まして、被告男性は、一ファンに過ぎず、被告アイドルと異なり、アイドルではなく、原告との関係で何らかの契約関係の拘束を負うものでもないと指摘。それゆえ、被告男性においては、原告との関係で、契約上はもちろん一般的にも、被告アイドルと交際し、さらに被告アイドルと合意の上で性的な関係を持つことを禁じられるような義務を負うものではないから、被告アイドルと交際し、性的な関係を持った事実をもって、原告に対する違法な権利侵害と評価することはできないというほかないとしています。


なお、当然ながら両親への請求も棄却されています。


今回の事例では、アイドルとの契約があまりにもアイドに不利な内容であったことから、そちらを救済する判断をしたという側面もあるでしょう。

厳しすぎる契約に苦しんでいるアイドル女性にとっては、一定の範囲で恋愛も認める内容となっており、参考になるかと思います。



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