FAQ
FAQ(よくある質問)
Q.マンション管理費で、事業用物件の差額は有効?
マンションの管理費設定で、居住用と事業用を分け、事業用を高額にしているケースもあります。共用部の利用頻度によっては、このような差額設定に合理性が認められることもありますが、その差額が大きいと無効とされる裁判例も増えています。
たとえば、東京地方裁判所平成27年12月17日判決です。2倍とした規約を無効だとし、過去の過払い分の返還を命じています。
この判例は
- マンションで事業用物件の管理費を高くしたい
- 事業用物件の管理費が高いのが納得出来ない
ような人はチェックしておくと良いでしょう。
事案の概要
管理組合が原告。区分所有者である被告らに対し、管理費を請求した事件。
管理組合の主張は、被告らの共有する各居室については事業用物件の管理費を2倍とする規約が適用されるというものでした。
これを前提に算定した未払管理費等及び遅延損害金の支払並びに同規約所定の弁護士費用を求めたものでした。
これに対し、被告らは、この管理規約の規定が無効であるなどと主張。不当利得返還請求権に基づき、既払の管理費等のうち過払いとなっている分の返還を求めました。
事業用物件で管理費2倍という規約が有効なのか争われたものです。
事業用物件の使用状況
被告らは、平成11年2月23日売買により407号室の、平成元年11月28日売買により609号室の所有権を取得。現在まで共有。
本件各居室は、被告が代表取締役を務める株式会社の事務所として利用されています。
マンションの管理規約と倍額規定
昭和60年9月8日効力発生の原告の管理規約には、以下の規定が。
ア 23条
(1項)区分所有者は敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。
一 管理費
二 特別修繕費
三 組合費
(2項)管理費及び特別修繕費の額については、各区分所有者の共有持分に応じて算出し、組合費の額については、各区分所有者が所有する住戸の数に応じて算出するものとする。
(3項)管理組合は区分所有者が所有する住居部分を他の用途に使用した場合、その区分所有者に対し管理費の増額を理事会の決議により請求することができる。
平成元年5月25日の定時総会に先立つ理事会で「住居部分を他の用途に使用した場合は管理費を通常の2倍とする」旨の決定がされました。
管理規約の改定
平成26年6月21日に開催された原告の臨時総会において、規約の改正が決議。新規約には以下の規定があり、同年7月分以降について適用することとされました。
ア 25条
区分所有者は、敷地及び共用部分等の管理に要する経費に充てるため、次の費用(以下「管理費等」という。)を管理組合に納入しなければならない。△△マンション管理規約制定(昭和60年9月8日)「管理費等」に基づき、事業所、事務所等に使用の場合は本条第1項の「管理費」を別に定めるところにより、管理組合へ納入しなければならない。
一 管理費
二 修繕積立金
三 長期積立金
四 組合費
平成26年7月分以降に適用される新規約に、事業用物件の管理費を2倍とする規定は存在していません。
被告らは、管理費額を居住用物件の2倍として算定した管理費等を当初は、口座引落しの方法により支払っていたものの、その後は支払を停止。
被告らは、倍額規定も明確にはないと主張、あったとしても無効だと主張しました。
倍額規定は一応認定
裁判所は、平成元年5月25日に開催された原告の通常総会の議事録には、「議案-3平成元年度予算案の承認」の項目に、「事業所居住者に対する二倍額の件についても、その後の調査に基づく一部修正を行なって、平成元年度予算案を承認可決した。」との記載があると指摘。
被告らが本件各居室の所有権を取得する際に交付された重要事項説明書には、事業用物件の管理費が通常の倍額となる旨の記載はなし。
本件マンションには、本件各居室以外に事業用物件として利用されている居室が4室あるが、その区分所有者らは特段異議等を述べることなく、通常の2倍の額の管理費を支払っていました。
ここから倍額規定の存在は認定。
区分所有法で不公平規約は無効に
区分所有法30条3項は、建物又はその敷地若しくは附属施設の管理又は使用に関する区分所有者相互間の事項を規約で定めるに当たっては、これらの形状、面積、位置関係、使用目的及び利用状況並びに区分所有者が支払った対価その他の事情を総合的に考慮して、区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならない旨を規定しています。
この要件が充たされていない場合には規約の当該部分は無効になるものと解されています。
そこで、原規約23条3項及び平成元年決定により定められたとされる事業用物件の管理費額を通常の倍額とする規定について、上記要件が充たされているか否かが問題となります。
本件倍額規定は、当該居室の使用目的が居住用であるか事業用であるかによって管理費額に差を設けるものであるところ、営利目的の事業用物件については当該居室からの収益が想定されるものの、このことから管理費の負担能力の高さまでが当然に基礎付けられるものとは認められないと指摘。
また、本件各居室の利用状況に照らしても、これが共用部分の使用頻度の観点から通常の居住用物件と大きく異なるものであるとは考え難いとしました。なお、本件各居室以外の事業用物件についても、上記観点から居住用物件と大きく異なるような利用状況にあることをうかがわせる証拠はないと言及。
過去に倍額を払っていた事実の評価
被告らは、本件各居室の所有権を取得した後、平成24年末頃までの相当長期間にわたり本件倍額規定の適用を前提とした管理費等を支払っており、上記時期までにこれについて特段の異議を述べたこともなかったことにも触れました。
もっとも、被告らに交付された重要事項説明書には本件倍額規定の存在を示す記載はなかったこと、本件倍額規定について書面の形での規約改正はされておらずその周知の程度には疑問があること、被告らは本件各居室の管理費等を口座引落しの方法により一括して支払っていたことなどの事情に照らせば、被告らは本件倍額規定の存在について特段意識することなく、単に請求された金額の管理費等を支払っていたものと考えるのが自然であり、このことは被告ら以外の事業用物件の所有者らについても同様であるとしました。
これを前提とすれば、被告ら及び他の事業用物件所有者らが本件倍額規定を適用して算定された額の管理費等を継続的に支払っていたとの事実は、同規定の合理性を基礎付ける事情として評価することはできないとしました。
倍額でないと運営できないとの主張は排斥
原告は、本件倍額規定が存在しなければ赤字となり健全な運営ができなくなる旨も主張するが、仮にそのような状況にあったとしても、その解消は支出状況の改善又は居住用物件所有者らの負担割合との調整等によって実現されるべきものであり、合理的な根拠があるとは認められない本件倍額規定の存在を許容すべき理由となるものではないと一蹴。
以上により、本件倍額規定は区分所有法30条3項に反するものとして、無効と判断しました。
無効なので不当利得が発生
平成26年6月分以前について適用が主張される本件倍額規定は無効。
また、同年7月分以降について適用される新規約には、本件倍額規定に相当する規定は存在しないと指摘。
したがって、被告らは、新規約適用の前後を通じ、居住用物件と同額の管理費の支払義務を負っていたに過ぎないことになるとしています。
そうすると、被告らが過去に支払った本件各居室の管理費等のうち、本件倍額規定により増額された部分は原告の不当利得になっており、その後に生じた被告らの未払管理費等に順次充当されたと認めるのが相当であるとしました。
この計算をすると、被告らの原告に対する管理費等債務は全額が上記充当により消滅。
被告らは原告に対して、上記充当後の残額である409万3380円の不当利得返還請求権を不可分債権として有しているものとされました。
なお、本件倍額規定の有効性は上記のとおり複数の事情の総合判断によるものであり、これが無効であることについて原告が当然に認識していたものとは認められないから、上記不当利得返還請求権について民法704条前段所定の利息が発生することはないとしています。
マンション管理費の金額設定
区分所有法19条では、管理費の負担について、専有部分の床面積割合に応じるのを原則としつつ、規約で別段の定めをすることも認めています。
本件はこれにより事業用物件との差を設定したものでしょう。
しかし、衡平を欠く規約は、無効になるリスクがあります。
判決では、事業用物件による共有部分の利用頻度が居住物件と比べても高くない点が指摘されています。
そのため、差額を設定するような規約とする場合には、利用頻度の違いなどの合理的な根拠を主張・立証できるような準備が必要といえるでしょう。
他の裁判例でも、事業用物件の管理費増額が無効とされているケースが複数出ています。
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